エピソード20 傍《そば》に居たい、夏の間だけ。

 手紙の内容は、大和型戦艦の3番艦と4番艦が進水し艤装中とのことだった。

「史実では航空母艦に改装された3番艦と建造すらされなかった4番艦が異世界では戦艦として艤装中か・・・」

 ロアはこれまでの人生を振り返り始めた。

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 前世では、東京都M区に住んでいた。都内の高校を出るとゲーム会社に就職した。理由?単純明快、ゲームをこよなく愛していたから。ゲーム開発を希望したが、結果はエンジニア。最初は落ち込んだよ、でも――そこで学んだプログラミング方法は手先が器用だった俺の生活を一変させた。サラリーマンは毎朝会社へ出社するが、エンジニアは在宅ワークになった。仕事内容は、クライアントからの依頼があれば海外だろうが出張する。それが日常だった。でも、まさか……25歳で車にはねられて事故死した。原因は信号無視のトラックだってさ。正直に言えば、「俺の人生を返せ!」って叫びたかったよ。

 でも、異世界に来たら来たで中々楽しい。新しい家族にずっと欲しかった妹まで・・・。今では、転生して良かった。

 思い出に更けていると、お昼を知らせる鐘が聞こえて来た。

「もう、昼食か。食堂に行かないと・・・」

 寮を出て階段を降り、廊下を渡った先にある学院昇降口で下靴から上履きに履き替えると地下1階に大食堂に向かった。

 大食堂に入ると、黄色い声と共にベルフィティアとその友人らしい人だかりに囲まれた。

「ファンです!握手してください‼」

「ずるいよ!抜け駆け禁止って、決めたのはあんたじゃン‼」

「お兄様、ご紹介しますね。私の友人で、ファンクラブの会員だそうですよ?」

「そうか、分かった。それと、今日の放課後だけど・・・」

「知っているよ、お兄様。お気を付けて」

 昼食にはホットドッグを模したソーセージの代わりにトンカツが挟まれているドーターという物を2つほど食べた。その後、自家製の果実水を一口飲むと演習場に出向いた。

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 家の事についてあまり触れていなかったが、2年前に大好きな母が胃癌イガンで他界した。あまり帰省しなかったが、手紙や伝書鳩で近況を報告しあっていた。

 3週間後には夏季休暇が始まるので、その時にでもベルフィティアと一緒に帰省してみよう。そしたら、母の眠る墓地に参ろうかな。

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