エピソード19 英雄への1歩目

 相手の走ってくる速度が遅いから、素早く背後に回り込み桜花を加えようとした時。奴が消えた。

「――っ!」

 背後から強烈な視線と殺気を感じたロアは、見事な宙返りでそれを避けると奴の姿があった。

「悔しいなぁ、キミはいつから気が付いていたのかなぁ?」

「どうやって、気配を消した?」

「なに。簡単だよ、死角を利用しただけだよ、それっ!」

 突きを放ってきたので受け流そうと構えた瞬間、ウザイケの剣先がキラーソードを突き抜けて目の前に来た。

「クソッ!」

「カハハハ!どうだい、僕の方が早いだろ?」

 何かが腑に落ちない、本当に早いだけか?いや、何か仕掛けがあるはずだ。

 そう思い、次の攻撃からは敢えて避ける事に集中してみた。

「ぜぇぜぇ、な。なんで、当たらないンだぁ?」

 腑に落ちた、奴は・・・瞬間で技を出している!

 どういう事なのかを説明しよう、奴は剣同士がかち合う時に僅かにずらして攻撃をしていた。つまり、ずれて見えているという事である。

「――断絶界」

 しかし、渾身の剣技で反撃を狙ったのだが・・・回避された上に見事な裏拳で頬を殴られた。

「プっ・・・、いってぇな。クソ野郎ぅ」

 欠けた歯を吐いて、剣を鞘に納めた。

「ケヘヘヘ、拳も攻撃の手段だぜ」

 ウザイケが追い打ちとばかりに飛び蹴りをしてきた。

「おらぁ!」

「ガフゥ・・・!」

 鳩尾にクリーンヒットして意識が飛びそうになる中、ロアは頬に拳を当てて空いている拳で長髪をした。

「なに・・・?」

「――来いよ、チキン。怖気づいたか?」

 剣をがむしゃらに振りながら迫って来るウザイケの顎にアッパーを当てて、吹っ飛ばすと同時に空中で飛び膝蹴りをかましてやった。

「あまり、俺を。舐めるな、クソ野郎」

 気絶しているウザイケに唾を吐くと同時に目眩がしたので、地面に膝をついた。

「お兄様!無事・・・なようですね」

「ロア様⁉誰か、回復魔法を!」

 観戦していた女生徒達が演習場にやって来て、気絶しているウザイケに眼もくれなかった。

「大丈夫だよ、無理をし過ぎただけだから」

 その後、ベルに付き添われて保健室まで行ったのだが・・・まさかの肋骨損傷と利き腕である右腕が骨折していた。

 マジかよ・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 翌日、教師の許可を得ない模擬戦をした事によりあのウザイケは退学処分となった。俺の方は感知するまで休学処分という事になった、理由は被害者だという事と正当防衛という事らしい。

 結果、完治するまで3週間を要した。

「――はい、問題ないので復学して良いですよ」

「あ、はい。有難う御座います」

 教室に入ると同時に、教師やクラスメイト達に声を掛けられた。

「もう大丈夫なの?」

「ウザイケだっけ?あの言葉、聞いていてスカッとしたよ」

「今度さ、あたしにもロア君の戦闘の仕方教えてよ!」

 おいおい、マジかよ。ウザイケのおかげで、モテ期が来た。ありがとう、ウザイケ。

 放課後、演習場に行くとそこにベルフィティアとクトリア姉妹がいた。クトリア姉妹とは、久々にあったような気がする。

「お疲れさまと言いたいですが、お兄様!無茶をし過ぎです‼」

 普段は小動物のようなベルフィティアが、怒っていた。

 それだけ、心配をかけたという事なのだろう。

「ごめんな、心配かけた」

「お兄様はいつも、いつも。無理を承知で喧嘩の最前線に行っています!少しは、自重したらどうですか⁉」

「ごめんって・・・、今度。パフェを奢るから」

「無理をし過ぎて、私より先に逝かないでくださいね?」

「ああ。逝かないよ、先には」

 最後にベルが抱き着いて来て離そうとしなかったので、そのままクトリア姉妹に社交挨拶をした。

「・・・あー。久しぶりだな、二人共」

「ええ、お久しぶりで御座います。英雄ロア様」

 ん?今、なんて言った?

「え、英雄・・・?」

 クトリア姉妹が揃って、跪いて来た。どういう事⁈

 理由は、3日前に起きた王都に侵入していた魔物を討伐する事に参戦したことがきっかけだった。

 参戦した後、俺が討伐した魔物の中にS級冒険者が相手にするようなグリェーコルイソンという1つ目玉の虫が紛れていたらしい。

「だから、俺が英雄だって?馬鹿馬鹿しいな」

「お兄様・・・」

 あ、やべっ。義妹ベルフィティアに黙って参戦した事がバレタ。

 ――はい、オワタ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 俺は英雄という言葉の重さをこの時、なにも理解していなかった。

 あの事件が起きるまでは・・・。

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