エピソード17 ロア流戦術
進水式をしているドッグに足を運ぶとロアは用意された紙に艦名を書いて、ネームシップと書かれている白紙に大きな字で金剛と記入した。
金剛型戦艦の一番艦金剛は主武装と副武装を別としている。主砲は四十五口径三十五・六センチ連装砲塔四基八門と五十口径十五・二センチ単装砲四基八門だ。その他の火器管制は四十口径十二・七センチ連装高角砲六基十二門と二十五ミリ三連装機関銃座十二基三十六挺、二十五ミリ連装機関銃座六基十二挺、二十五ミリ単装機関銃座四十基四十挺を搭載した基準排水量三万二千二百トンの全長二百二十二・〇メートル、最大幅三十二メートルの超弩級高速戦艦である。最大速力は三十ノットを誇り、十八ノットで一万浬を航行可能な計算だ。コレだけの快速を出すために機関出力は驚異の十三万六千馬力を保有している。
ちなみに、超弩級の『弩』とはドレッドノート級の事である。つまりこの場合はドレッドノート級を凌駕する高速戦艦という意味である。
金剛が進水するとその隣に移動して、比叡と記された戦艦の進水式が行われた。
比叡は金剛型戦艦の二番艦である。主武装と副武装は、四十五口径三十五・六センチ連装砲塔四基八門と五十口径十五・二センチ単装砲七基十四門だ。その他の火器管制は四十口径十二・七センチ連装高角砲四基八門と二十五ミリ連装機関銃座十基二十挺を搭載した基準排水量三万二千百五十六トンの全長二百二十二・〇メートル、最大幅三十二メートルの超弩級高速戦艦である。最大速力は二十九・七ノットを誇り、十八ノットで九千八百浬を航行可能な計算だ。コレだけの快速を出すために機関出力は驚異の十三万六千馬力を保有している。
さらに続けて三番艦の榛名や四番艦の霧島も進水していき、新しく建設した戦艦専用の埠頭に四隻を係留させた。
「壮観だな、やっぱり男のロマンは最高だ」
その後、重い足取りで学院に戻ると理事長とベルフィティアが心配した顔色で待って居た。
「お帰りなさい、お兄様!」
「ただいま、ベル。何とか帝国艦隊を撃沈してきたよ」
「コホン……無事で何よりです」
「あ……。り、理事長……」
「まったく、今日の授業は貴男を教師として魔法実技を予定していたのよ?」
「ア、ハハ……すいませんでした!」
苦笑いをしてすぐに土下座をすると、理事長は呆れながら学院に戻って行った。
「――ところで、お兄様?また、周りが騒がしくなりますね?」
「えっと……、どういう事かな?」
顎でその方向を指したベルの方向を見ると、軍服姿だった事を忘れていた。
「あ、やべっ」
時すでに遅かった……、囲まれた。
「ロア先輩!」
「軍服姿もかっこいいですわぁ」
「先輩、私は貴男をお慕いしています!」
告白もついでにされてしまった、いやいや!ベルの反応が気になる……ジト目って。
「ごめんね、妹と予定があるから――」
「残念ですわ」
「お返事を待って居ますからねぇ!」
「ははは……、お、怒っている?」
「お兄様、背後にご注意を」
怒って居るね、この状況は!
寮の自室に戻ると伝書鳩が窓枠に止まっていた。
「あれ?またか?」
手紙を取ると、内容を見た。内容は、帝国側の動きの詳細と金剛型が演習中に新型帝国戦艦の影を見たという内容だった。
「おい、マジかよ……。またか⁈」
二枚目にはニュー・メキシコ級3隻とサウス・ダコタ級4隻の艦影らしきを北部海域で捕捉したという内容だった。
「ニュー・メキシコ級はともかくサウス・ダコタ級って、マジ……⁉急いで四十一センチ主砲を搭載している長門型を建造しないといかンやン!」
しかし睡魔が襲ってきたので、その日は早めに就寝する事にした。
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翌日、朝から久々に授業を受けていた。内容は魔術戦闘学だ、要は魔法を駆使する戦闘時における立ち位置みたいな物だ。ま、全属性の適性があるロアからすれば当たり前なのだが……。違うのは、ロアは前衛戦闘系でグイグイ詰め寄って行くタイプだ。それに対して、この授業では仲間の支援や強化魔法の使い方を王都勤務の元魔法師団長から教わるという物だ。
つまり、ロアは退屈なのである。
「じゃあ、ロア・ヴェルモンティア君。キミの得意な強化魔法は?」
「え?」
「聞いていなかったのか?もう一度言うぞ、得意な強化魔法は?」
え?理事長からの説明聞いていないのか、この人。
「え、えーっと……身体強化からの限界突破ですけれど、なにか……?」
「フム、身体強化を剣士に付与するのか。全く持って、論外だな――」
「あ、いや。俺に付与するので」
「……ハッ!魔術師のお前が、付与だと?自分に?笑わせる回答だな」
元魔法師団長は笑い転げていたが、周りに居る生徒はロアを憧れの眼で見ていた。
「そんなに付与して、死ぬ気か?」
「理事長から、言われていませんか?だって俺は、前衛型の魔銃剣士ですから」
その言葉に笑いが止まらなくなった元魔法師団長は教卓を叩いていたが、その瞬間には黙ってしまった。
「あんなクソ野郎の言葉なんか、俺は聞かないさ。総魔力量が俺より下の理事長なんか――」
その瞬間、何かが頭の中で弾け飛びロアは無意識に動いていた。
首を傾げながらゆっくりと席を立ち教卓に歩いて行く様は、元魔法師団長や生徒達から恐怖に思えた。
「誰が、クソだって……?――死にたい?」
次の瞬間。ロアは元魔法師団長の背後に立っておりキラーソード《軍刀》とブラッケリア《黒剣》を、元魔法師団長の首元に当てていた。
「ヒッ……‼」
「なぁ、あんたが強かったら俺と戦ってみろよ。男だろ?」
その言葉に奮い上がった元魔法師団長は手袋を取って、ロアに投げつけた。
「二度と、二度とその口をきけなくしてやるよ‼」
それを聞きつけた理事長は、特別処置という事で返事した。その後、演習場に移動した二人を観客する人だかりが出来ていた。なにしろ、元魔法師団長に喧嘩を売った男子生徒の実力を見るためとなれば観客席に多数の教師と王国の関係者らが座っていた。
「魔法師団長側はロア・ヴェルモンティア君の戦意を喪失させる事、ロア・ヴェルモンティア君は魔法師団長に自身の戦闘能力を知らしめる事とします!では、用意……始め‼」
理事長の合図と共に魔法師団長が詠唱を始めた、いや……詠唱要らないって。
ロアは半分呆れながら、無言で身体強化を自身に付与した。
「ははは、生徒が教師に喧嘩を――」
「有詠唱だから、遅いンだよ」
「なに……?」
「十斬!」
愛刀のキラーソードを抜くやいなや、懐に駆け寄り十回斬撃を与えた。
「ば、馬鹿な⁉――がh……‼」
「……永劫裂断!」
背中から抜いたブラッケリアで展開中の術式を手ごと縦断させると、そのままの流れで魔法師団長の背後に駆け抜けた。
「こいつも、貰って行きやがれ。ふっ……、お土産だ」
栓を抜いた炸裂手榴弾をのたうち回っている魔法師団長の傍に投げ込み、背を向けると同時に爆発した。
その後、理事長が煙の中を確認しに行くと、戦闘不能かつ重症の魔法師団長を発見した。
「勝者、ロア・ヴェルモンティア君!」
その合図と共に教師たちが喜んだが、王国関係者らは驚きの声を上げた。
「あいつは、化け物だ!」
「あれが、帝国側に着いたらただでは済まなくなるぞ!」
「嗚呼、魔法師団長が……」
絶望している王国関係者らを尻目に教師たちは、演習場内に居るロアに歓声を上げていた。
「最高だよ!」
「ヴェルモンティア君はやっぱり、学院最強だ!」
「私はロア君を尊敬していくわよ!」
ロアは血反吐を吐いている魔法師団長の前に立つと、「プライドなんか捨てて、少しは女子を見習えよ」と言った。コレを聞いた魔法師団長は失笑した。
「ははは……、私はいつしか。自分が最強だと、勘違いをしていたようだ」
「あんたは最強だよ、俺以外の人からすれば……でも。俺みたいに強くなり過ぎたら、暇になるから無理はオススメしないよ」
去り際に名前を聞かれたので、「ロア・ヴェルモンティア。ヴェルモンティア領の現役当主だ」と答えた。
後日、元魔法師団長を瀕死にしたロアの戦術が有名になり一部の街や国で劇にもなったらしい。
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