エピソード16 艦隊決戦って、マジデスカ……

 授業が終わればすぐに、領内の軍港に足を向けるのが最近の日課だ。

「お帰りなさいませ、ロア様」

「ただいま、レコン。早速だが、あの日から4年が経過しているから帝国側の情勢を知りたい」

「はっ……。まず、密偵からはワットソン・ガーベレルという白人男性との接触を果たしました。彼は異世界から転移してきたと言ったそうです。ロア様なら知っているだろうと思い何処から来たのかを告げるとアメリカ合衆国と言ったそうです」

「アメリカ……、西暦は?」

「2001年9月11日らしいです」

「テロの日か……、なるほど」

 テロの日――アメリカ同時多発テロ事件は、2001年9月11日の朝、イスラーム過激派テロ組織アルカイダによって行われた、アメリカ合衆国に対する4回のテロ攻撃だ。9・11テロ事件とも呼ばれている。その日からこの事件を契機としてアフガニスタン紛争が勃発した。

「――ロア様?」

「ああ、すまない。考え事だ、気にしないで続けてくれ」

「は、はぁ……、それで帝国側の主力はコロラド級戦艦になっております」

「ん?もう一度言って?」

「ですから、コロラド級戦艦4隻とノース・カロライナ級戦艦2隻が就役しているらしいです」

 ノース・カロライナ級とコロラド級だと……?流石に重巡洋艦戦隊だけでは心もとなくなってきたというより、不安だ。

「計6隻か?」

「ええ」

 マジか……戦力差は最悪な状況だ。このまま、海戦でもすれば主砲制度の悪さで勝敗が決まってしまう。こうなったら、高雄型重巡洋艦と金剛型戦艦を同時に建造させるしかなさそうだな。

「レコン、密偵からの報告を密にしろ。それと、帝国側が臨戦状態になったら俺に報告しろ」

「御意」

 馬車に乗り込み王立学院マナディルアの寮に戻ると、ベルフィティアと夕食を楽しんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 翌朝、レコンが使役している伝書鳩が窓枠に止まっていた。

「手紙……?」

 伝書鳩の脚に括り付けられていた手紙を外して、クッキーを一口サイズに砕いて伝書鳩に与えている間に外した手紙を広げて内容を見た。

「……――は?うっそだろぉ‼」

 手紙を放り捨てて、急いで私服に着替えると寮の鍵を閉めて飛び出していった。手紙の内容は帝国から帰って来た密偵が数分前に帝国の6隻の船がヴェルモンティア領に向けて出撃したと書いてあった。

 脚力強化を使用して5分でヴェルモンティア領に帰って来たロアは、秘密軍港に急いだ。

「レコン、居るか?」

「ロア様、お帰りなさいませ」

「おい!誰か、レコンを呼んできて!今すぐ、緊急だ!」

 自室のドアがノックされると、そこにレコンが入って来た。

「お呼びですか?」

「伝書鳩の通りなのか?」

「はい、先程帰ってきましたので報告を聞きましたので……」

「そうか。高雄型と金剛型はどこまで出来ている?」

「高雄型は4隻ほどですが、金剛型は3隻です。また、高雄型4隻につきましてはすでに公試を終えております故に、いつでも実戦配備が可能です」

「わかった、全艦。緊急出港、方位076。帝国沖を進軍中の6隻を撃沈しろ」

「了解、あ。ロア様も参りますか?」

「もちろんだ」

 私服から軍服に着替えて駆け足で埠頭に入ると、右から高雄型4隻と妙高型4隻、青葉型2隻、古鷹型2隻が並んで錨を降ろしていた。

「お待たせいたしました、いつでも出港できます!」

 高雄型重巡洋艦の3番艦摩耶に乗艦して艦橋内でレコンを待って居ると、軍服を着たレコンが他の乗組員を従えて艦橋内に入って来た。

「総員、戦闘配置。全艦、抜錨せよ!尚、旗艦は摩耶とする」

「了解!」

 こうして秘密軍港から出港した摩耶を旗艦とする重巡戦隊は、ローレラン帝国沖に向けて航行したのだが、補足した6隻らしきものを見たロアは困惑した。

「コロラド級戦艦の3番艦ワシントンと4番艦ウェスト・ヴァージニアは分かるけれども、ワスプ級航空母艦1隻とアトランタ級軽巡洋艦1隻、キーロフ級軽巡洋艦2隻は聞いていないって!」

 レコンの方を見ると焦っていた、いや……困惑するなよ。

「マジか……、予想外だ。航空母艦が居るという事が」

「何かがこちらに、来ます!」

「全艦、対空戦闘!全主砲に三式榴弾を装填、撃てぇー!」

 双眼鏡を手に取り、右舷側を注視すると薄らとワスプの艦載機であるTBFアベンジャー4機が見えた。

「雷撃機なんて物を召喚したのか……?まったく、ハリネズミの異名がある摩耶に攻撃するのに機数が少なすぎる」

「射撃、用意良し!」

「分かった、右舷。艦対空戦闘……撃ち方、始めぇ」

「――撃ち方、始め!」

 高雄型重巡洋艦4隻から放たれた38発の三式榴弾が、重巡戦隊に向かってくるTBF4機を次々と落として行った。

「敵機、全機の撃墜確認!」

「面舵一杯、最大速力へ」

「はい!第一戦速から両舷増速!――面舵一杯、急げ!」

「主砲、徹甲弾に切り替えた!」

「重巡の力、思い知らせてやれ。全主砲、撃ち方始め!」

「――撃ち方、始めぇ‼」

 今度は交互撃ち方で誤差修正をしながら徹甲弾をワスプの船体に叩き込んでいき、周りに居た艦にも搭載している六十一センチ魚雷を命中させていった結果、撃沈3隻・中破1隻・大破2隻という戦果を挙げた。

「敵艦、回頭。追撃を申請します」

「向こうの、艦は?」

「はい、大破はワスプ1隻とワシントン、中破はウェスト・ヴァージニアです」

「ワスプを撃沈しろ、他は見逃してやれ」

「はい!」

 20分後。追撃をしていると突然、ワスプが爆沈した。

「ワスプ、爆沈確認!」

「回頭して、帰港しようか」

「取舵、一杯‼」

 帰港した重巡戦隊の旗艦である摩耶から埠頭へ下船したロアとレコンは、進水式をしている恩号型を見に行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る