エピソード14 古鷹型重巡洋艦、抜錨!

「3年前、突然広大な海の向こうにあるローレラン帝国が侵略をしてきた。当時はまだ王都直轄だったここからは、共学制だったので多くの男性が戦場に駆り出されたらしい。私は、その時初めて帝国側の兵器を見たよ。鋼の帆船を」

「……ん?鋼って、もしかしてこんな模様とかありました?」

 そう言って、近くにあった白紙の紙に第二次世界大戦時にアメリカ海軍が使用していたメジャー迷彩を書いて理事長に見せると、「これだよ!」と肯定した。

 ――という事は……え⁉

「それで、理事長。その、鋼の帆船の見た目的特徴は……こういう形でしたか?」

 ロアはもう1枚の紙に、アイオワ級戦艦のようなシルエット絵を記して見せるとこれも頷いた。

「なるほど……、俺と同じか。あるいは、転移者の可能性が有るな」

 ロアが考えに耽っているとそこに、ベルフィティアとその後ろにレコンが入って来た。

「失礼します、ロア様」

「お兄様、レコンを読んできたわ!」

「ん?ああ、御疲れ様。……レコン、急ですまないがローレラン帝国に密偵を派遣してくれ。帝国側に転移者が居そうな予感がする」

「はっ……、急ぎ手配します」

 レコンが部屋から出るとすぐにベルフィティアの方に向きなおって「ベル、お兄ちゃんは帝国を見て来るからここに居て理事長を守ってあげて」と優しく言い聞かせた。

「はい、お兄様!」

 ロアがドアノブに手をかけると、ミーナが肩を掴んできた。

「何処に行く気だ?」

「領地の秘密基地に行くだけだ、なに心配は要らないよ」

「私もついて行って、良いか?」

「……なんで?」

「さ、寂しいからに決まっている……」

 最後の方は聞えなかったふりで流したが、ベルからの敵視が怖い。

 それより、ミーナさんがまさかのツンデレですか……人は見かけによらないですね。

「……勝手にしろ、ただし。――死ぬなよ?」

 ドアを開けて出て行くと正門には、レコンが指揮する特殊部隊が待機していた。

「お帰りなさいませ、ロア様。どちらに向かわれますか?」

 平常時はヴェルモンティア伯爵家のメイドだが、緊急時は特殊部隊になる頼もしいメイド達だ。

「アレは完成しているか?」

「公開試験航行だけです、それが――もしかして」

「ああ、出航準備だ。帝国に派遣した密偵からは?」

「中型の帆船を確認したという情報が来ています」

「中型か……分かった」

 ヴェルモンティア領南端には自然にできた大空洞が存在しているのだが、その洞穴全てロアが秘密裏に建造した秘密海軍基地である。新造艦が建造された後、毎年には観艦式を国民に開いているのだが軍事機密のため他の領地や王国には存在を他言していない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 馬車がそこに到着すると、ロアはすぐに降りて近くにある偽装監視塔に駆け上り帝国の艦艇を視認した。それで分かった、ボルチモア級重巡洋艦だ。

「米帝の艦艇か、大体絞り込めた……おそらく向こうは米の転移者か転生者だな」

 これまた駆け足で監視塔を降りると洞窟に繋がる道に入り秘密基地に到着して早々に、1番埠頭と書かれた場所に係留している艦艇に乗艦した。

 ロアが乗船した艦艇の名は古鷹型重巡洋艦の1番艦である古鷹だ、艦首旗と軍艦艦尾旗に掲揚されたのは菊の花をあしらった大日本皇国旗とHK416Dをバツ印にしただけのヴェルモンティア領旗を掲げた。ちなみに古鷹の主武装と副武装は五十口径二十・三センチ連装砲塔三基六門と六十一センチ四連装魚雷発射管二基八門だ。その他の火器管制は四十五口径十二センチ単装高角砲四基四門と二十五ミリ連装機関銃座四基、十三ミリ連装機関銃座二基を搭載した基準排水量八千七百トンの全長百八十五・一七メートルの重巡洋艦である。最大速力は三十二・九五ノットを誇り、十四ノットで七千浬を航行できる計算だ。

「あ、ロア様。公開試験ですか?」

 羅針艦橋にロアが入ると、それに気が付いたレコンが敬礼した。

「今すぐに出港できるか?」

「えーっと、可能ですが……?」

「錨を上げろ、面舵少々。機関、微速前進」

「抜錨!」

 レコンが指示を飛ばすと同時に、ラッパが艦内に鳴り出した。

「面舵、離岸……!」

「微速前進、赤黒無し!」

 錨が完全に上がり終えると同時に、前部煙突から黒煙が上がり始めた。それに比例してゆっくりと離岸した後で、ロアは艦長席に座り艦内無線機を手に取り「初陣用意、総員。――合戦用意、繰り返す合戦用意」と話すと艦内に警告音が鳴り響きだした。

 ヴェルモンティア領沖に出たロアを乗せた古鷹は現在、最大速力の手前という快速で主砲塔を準備し終えて航行していた。

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