第10話 いつもと違う彼女

「え、遊園地?私達と成海君が?」

「うん。店長の気遣いでな」


翌日の朝、教室に着くなり三人にチケットを見せて遊園地へと誘ってみた。未来先輩が言うには遊園地が嫌いな女子は居ないらしい。そんな未来先輩の考えは珍しく当たったらしく浅倉さんは嬉しそうに微笑んでいたし、神楽さんは物凄く笑顔とまではいかないがその瞳は細められ、口元は微かに緩んでいた。そんな中、新田さんは顎に手を添えて思い詰めた様に考え事をしていた。


「新田さん、遊園地嫌い?」

「え、いやそんなんじゃないんだけど・・・ううん、多分大丈夫」


新田さんは首を一度振って頷くがその表情は晴れないままだ。友達思いの新田さんのことだ。本当は行きたくないけど二人が行くならって無理してるんじゃ。確かに新田さんって遊園地よりもカラオケ派っぽいもんな。でも悪い、俺音痴なんだよ。俺が歌ったら死人が出るんだ。


俯いて拳を握り締める俺だが新田さんの一言で顔をあげることになる。


「絶対に行ってみせるわ」


新田さんは誰に言うわけでもなく俯きがちに呟いていた。


そんなに遊園地に行きたかったのか…?だとしたら新田さんも随分と可愛いところがあるじゃないか。


うんうんと頷いていると授業が始まるチャイムが鳴って一旦この話は保留になった。



担任の話を聞いていると朝なのに眠くなる。周りを見れば既に寝てる奴らが居た。もっと面白い話出来ねぇのか。俺も人の事言えないが。


たまたま新田さんの姿を視界に捉えるとスマホを弄っていて全く先生の話を聞いてないようだった。・・・不良じゃん。あんな堂々と扱って良く先生にバレないな。ぼっーと新田さんの方を見つめているとどこからが咳払いをする音が聞こえてきた。ちらりと横を見ればこめかみに青筋を立てた先生が目の前に立っていた。


「成海〜、余所見するなんて随分と余裕みたいだな。だったら黒板の問題を解いて来い」

「・・・はい」


新田さんのせいでとんだとばっちりだ。・・・見てた俺が悪いんだけど。俺はすらすらと問題を解いた後、もう余所見なんかせずに授業が終わるまで必死に先生の話を聞くことにした。


♢♢♢


放課後になるといつもの如く浅倉さん達は俺の席に近付いてくる。


「成海君、一緒に帰らない?」

「・・・あぁ、そうだな」


なんで君達は毎回当たり前の様に俺のところに来るんだ・・・そう言う選択肢はもう俺の中に存在してなかった。だからと言って決して三人に心を許したわけではない。何度言っても俺の意見を聞こうとしない、絶対に自分の意見を押し通そうとする三人に呆れて何も言えなくなってしまっただけだ。


「あっ、私はパスね」


新田さんは手をあげると同時にカバンを持って教室を後にしようとしていた。


「えぇ!?翠、一緒に帰らないの?」

「うん、ごめんね」

「・・・ミドリ、具合悪い?」

「そんなんじゃないから大丈夫よ」

「何か用事あるのか?」

「・・・・・アンタには関係ない」


解せぬ!!


二人が声を掛けるから俺も流れに合わせて声を掛けただけなのに返ってきた言葉は『アンタには関係ない』?随分と良い御身分じゃないか。気付けば新田さんは既に教室を出て行った後だった。


「翠、どうしたのかな?」

「・・・彼氏が出来ただけだろ。」


ふいっとそっぽを向いて言えば隣から物凄い圧を感じた。そちらに視線を移すと浅倉さんが俺に顔を近付け頬を膨らませていた。


「そんなことないよ!だって翠、成海君の事好きだもん!」


・・・その根拠はなんだよ。そう言いたかったが浅倉さんの笑顔でこちらを納得させようとしてくる姿に何も言えなくなってしまう。たまに浅倉さんから感じる恐ろしい程のオーラはなんだ?


「・・・ミドリ、心配だね」


神楽さんはぼそっと独り言の様に呟いた。実際は独り言の様に見せかけてその瞳は間違いなく俺を捉えている。


「え、俺行かないよ?」

「・・・ミドリと仲良くなりたいって言ってた。仲良くなれるチャンスだよ」

「言ってねぇよ」


別に仲良くならなくて良いのだが、今言うべきではないって事は俺でも分かる。俺は深い溜め息を吐くとカバンをとって急ぎ足で教室を出た。



とは言え、新田さんが何処に居るのか分からない。周りを見渡しても目立つ金髪は見当たらなかった。


・・・・・よし、帰ろう。


居ないなら仕方ないだろ。俺は一応追い掛けて探そうとしたんだから。



しかし俺が来た道を戻ろうとした瞬間、誰かにぶつかってしまう。


「あっ、すみませっ、!?」

「あ、アンタ!?」

「・・・ん?誰かな、君は」



そこには髪を纏め、丈の短いワンピースにいつもより何倍も派手なメイクをした新田さんが居た。

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