第9話 悩みは絶えない
「先輩が異性からされて嬉しい事ってなんすか?」
「何だよ、薮から棒に」
休憩室でスマホ片手にポテチを摘む未来先輩が俺の突然の質問に顔をあげる。
「いや、先輩も一応女子?じゃないすか。先輩だったら何をされるのが一番嬉しいのかな〜って」
「はっは〜ん?例のカワイコちゃん達だろ?」
その話題を出した途端に先輩は誰の話をしてるのか分かったみたいで相変わらずにやにやとムカつく笑顔を晒してくる。
「・・・すみません、忘れてください」
この手の話を先輩にしたって駄目だ。今までだってまともな答えが返ってきたことなんてないんだから。
「ごめんって〜、でもやっと裕介君も私の力が必要になったか。良いだろう!可愛い後輩ちゃんの頼みだ!存分に私の力を解放しよう!」
「・・・やっぱり忘れてください」
先輩は立ち上がって厨二病っぽいポーズをとる。普段、先輩は面倒臭がって適当な答えしか返ってこないがこういう話題になると食い付きがヤバくノリノリで乗ってくるから困ったもんだ。でもだからと言ってアテにならないのは確かだから今すぐチェンジさせて貰いたい。
「私から良い提案がある。」
「・・・まぁ、一応聞いてあげます」
嫌な予感がするが聞くだけならなんともないだろう。
「君の名字を彼女らにあげるんだよ」
「・・・はぁ!?な、何を言ってるんですか!?」
「私は別に君の名字を貰っても嬉しくないが彼女らからしたら嬉しくて泣くんじゃないか?・・・私は嬉しくないがな!」
やっぱ先輩はバカだ、大馬鹿だ!
ドヤ顔で親指を立てて良い笑顔なのがまた腹立つ。俺は頭をガシガシと掻くと先輩に対抗する様に良い笑顔で言ってやった。
「先輩、却下で」
「・・・はぁ!?なんでだよ!完璧だったろ!?」
「どこがですか!名字をあげると言うことはですね!け、結婚をするって事なんですよ?」
「良いじゃないか!一夫多妻が駄目なんて法律ぶち壊してしまえよ!」
やっぱこの人、狂ってやがる!
大体俺達は付き合ってもないのに段階を無視しすぎだろ。
やっぱ先輩に話すだけ時間の無駄だったな。仕方なくスマホで女子がされて嬉しい事を探す事にしたのだがこれがまた意味不明だった。
レディファーストな振る舞いって何だよ。どこからがレディファーストになるんだよ。
サプライズプレゼントをする?でも彼女達の好み分かんねぇからな。
ちょっとした変化に気付く・・・最近顔がちょっと丸くなったとか…?
「うわっ、女ってめんどくせー・・・」
女ってこんな事で喜ぶのかよ。全く理解出来ないんだが。大体これ、彼氏にされて嬉しい事じゃねぇか!恋人でもなんでもない俺が彼女達にしても無意味に違いない。
「はぁ、結局八方塞がりかよ」
「だったら口付けはどうだ!?」
「・・・先輩は黙っといてください」
椅子に凭れ掛かって天井を見上げる俺に先輩が新たな提案を出してくるのだが相変わらず役に立たなそうだ。
てか俺、一言も助けてなんて言ってないしお礼しなくてもいいんじゃね?そんな結論に至ってスマホをテーブルの上に置くと再び椅子に凭れ掛かる。
「お疲れ、二人とも」
がちゃりと休憩室のドアが開かれそこから店長が顔を出す。
「店長、お疲れ様です」
「店長うぃーす」
店長は俺と未来先輩を交互に見てにこやかに休憩室に足を踏み入れる。
店長は強面だが実際は動物にさえ愛情を持って接する人だ。俺がバイト探しに手こずってる時も優しく手を差し伸べてくれた。
「成海君、具合でも悪いのかな」
「え、あー…そんなんじゃないんですけど」
店長は周りの表情に敏感だ。今だって微かな俺の影のある表情を見逃さずに指摘してきた。
「彼、彼女との事で悩んでるみたいです」
「彼女じゃないですから!」
「ほぅ。成海君の彼女さんか。それは興味があるね」
未来先輩の適当な言葉に店長は目を細める。店長は空いてる椅子に座ると俺に話の続きを促してきた。
「彼女じゃなくてクラスメイトです。そのクラスメイトに一応お世話になってるんで何か返したいなと思って」
「成海君は何をするつもりなのかな」
「それが決まんないんですよね」
「だーかーら!婚姻届けを渡して『ここに名前書いて☆』って言えば完璧だって!」
「・・・未来君は黙っとこうね。じゃあ、成海君がされて嬉しい事を相手にもしてあげたらいいんじゃないかな。」
俺がされて嬉しいこと…?三人に…?
顎に手を添えて俺は一体何をされるのが嬉しいのか必死に考えてみる。そしてひとつの答えに辿り着いた俺はゆっくりと顔をあげた。
「思い付いた様だね」
「はい、お陰様で。俺がされて嬉しいことは——
————一日中ほっといてくれる事ですね」
「んん?ほ、本当にそれが成海君が相手にされて嬉しい事なのかな」
「はい!」
「・・・未来君、成海君は相手の事をあまり良く思ってないのかな?」
「あはは。彼、基本馬鹿なんで」
アイツらと赤い糸で繋がれるまで基本静かに過ごせてたと言うのに最近はそれが叶わなくなってしまった。アイツらはいつも三人一緒に居るから一人の心地よさが分からないんだ。それを気付かせたらアイツらも一人で過ごす時間を大事にして俺にしつこく接して来ないはずだ。じゃあ次はその方法を考えなくては。
「拉致って閉じ込めるとか、遊びに誘う振りをして違う場所を教えて一人にさせるとかどうですか?」
「うん。人間関係にも響くから止めとこうか」
「君って地頭良い癖になんでこういう時は私でも考えない阿保なことを思い付くんだい?」
良い考えだと思ったのにな。
「では私が、君達の遊園地へのチケットをとってあげるから今度の週末にでも行っといで」
「えぇ!?い、いや悪いですよ!」
「いいや、それが良い!是非私にも君の恩返しを手伝わせてくれないか」
「まぁ、それが一番無難で良いんじゃない?」
二人から尋常じゃないくらいの圧を感じ取った俺は頷かざるを得なくなってしまう。
てか店長はともかく、未来先輩に至っては人の事言えなくないか!?
♢♢♢♢♢♢
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