第8話 万事解決

男に絡まれてる浅倉さんを助けた翌日、何故か俺はヤリチンと言うレッテルを貼られてしまった。あの時の男共のせせら笑う声、女子の氷の様な視線は今でも忘れられない。後から駆けつけた浅倉さん、新田さん、神楽さんが俺のフォローに回ってくれたお陰でなんとかあの場は凌ぐ事が出来たがあのねちっこい男がそう簡単に諦めるだろうか。もしかしたら今も尚、俺を貶める為に動いてるかもしれない。それに周りの連中もカースト上位者の言う事を信じてるに決まってる。幾ら三人が俺を庇ったって疑いの目は晴れないだろう。


そして今日はその事件が起こった日の翌日になるわけだが、きっとこの扉の向こうではクラス中の奴らが俺の事を悪く言ってるに違いない。教室に入った途端に冷ややかな目で見られるんだろうなー・・・。


嫌だなー、初めてサボろうかなー。


「早く入りなさいよ」

「うぉっ!?・・・なんだ、新田さんか」


教室のドアに手を掛けながら悶々としていると急に背後から声が掛かって俺の口からは情けない声が漏れる。


振り返ると新田さんが俺のすぐ後ろに立っていた。またその後ろには浅倉さんと神楽さんが。


「顔色が優れない様だけど大丈夫?」

「・・・変なものでも食べた?」

「ほっといてくれるかな。俺は今、優等生の自分を貫き通すかそれに抗ってサボるか悩んでんだから」


ドアの方を見つめながら三人に冷たく言い放つ。浅倉さんが心配してくれてるが今はその優しさでさえ辛いものがあった。



・・・そうだ、俺は優等生なんだ。今まで授業にまともに出てたし成績だって毎回トップの方だ。そんな俺だからこそ、誰もサボりだと思わないんじゃないだろうか。逆に心配して皆、昨日の事を忘れるに違いない。


うん、完璧だ!!


「う、ぐぅ!きゅ、急に腹の調子が・・・」

「えぇ!?大丈夫、成海君!」


信じてる、まんまと信じてるぞ!


腹を押えて蹲る俺に浅倉さんはあたふたしていた。


「・・・猿芝居」


神楽さんが目を細めてぼそっと呟くが何も聞こえない振りをして芝居を続ける。


良いんだよ、俺は一人でも信じてる限りずっと演技をし続ける!!


「はいはーい、そんな事言ってないで入るわよー」

「え、待てって!俺マジ腹痛いから保健室に行かないと死ぬんだよ!」

「死なない、死ななーい」


ぜんっぜん聞く耳持たねぇな!!


強引すぎる新田さんに俺は抵抗する間もなく新田さんに手を引かれたまま教室へと入ることになってしまった。


きっと皆、俺が教室に足を踏み入れたら睨み付け暴言を浴びせてくるに違いない。だが逃げたいにも新田さんが手を握ってるからそれは無理だ。仕方なく俯きがちに教室に入ると聞こえてきたのは俺が予想していた言葉だった。


「マジ、クズすぎじゃね?」

「噂によると何股もしてたらしいよ」

「最近調子に乗ってたもんな」


あぁ、やっぱり。


教室に入って真っ先に聞こえた俺の悪口。今のところ俺の存在に気付いてないのか俺に直接暴言をぶつけてくることはないがそれでも心が抉られる思いだった。


やっぱサボらせて貰おうと新田さんを押し切って俺は廊下へ出ようとした。


「ほんっと、サイテーだよな—————青木って」

「・・・は?」



青木?誰だ、ソイツは。一体俺の悪口はどこに行った。完全に俺がディスられてると思っていたから何だか拍子抜けだった。


俺の声にクラスメイトは話を止め、一斉にこちらを見る。


「なんだ、成海来てたのか!」


俺に気付いた真田がニカッといつものおちゃらけた笑顔を向けてきた。いつもは苛つくが今日はその笑顔に安心させられた。


「しかしお前も災難だったな」


少し遅れて後藤が無表情で意味不明な事を言ってくる。何故そんな事をいきなり言ってくるのか、訳が分からない俺は首を傾げた。


「だってお前、青木に嵌められそうになったんだろう?」

「え、青木?」

「ほら、カースト上位の奴だよ!昨日廊下で揉めてただろ!」


アイツ、青木って名前だったのか…。初めて知ったな。でもなんでソイツに嵌められたって分かんだ?あんな大勢の前で勝手な事を大声で叫ばれて特に反論も出来なかった俺はほぼ黒確定なのに。


「アイツ、赤い糸で結ばれた子と恋人になったらしいんだけどそれとは別に狙ってる女子に片っ端から声掛けて付き合ってるらしいぜ?」

「好青年だったから残念よねー」

「あ〜ん!私、狙ってたのにぃ〜!」


男連中は笑い飛ばす様に、女子達はショックを受ける者も居れば怒りを露わにする者も居て其々反応を示していた。


じゃあアイツ、既に彼女が居るにも関わらず浅倉さんに告ってたと言うのか?


・・・とんだクソ野郎じゃねぇか!!


でもまぁ、平和に済んだ様で良かった・・・のか?


今日は授業を受けてすらないのに既に体力の限界を迎えていた。やっぱりサボろうかな…。


「良かったね、成海君」


浅倉さんが後ろ手に組みながら声を掛けてくる。


「あぁ、うん。浅倉さん達にも一応お世話になったね」

「もう!一応じゃないでしょ?大変だったんだからね?彼がこれ以上悪さをしない様にヤキを入れたりして・・・」

「や、やき?」

「あっ、ううん!ちょっとあっちこっちから彼の情報を集めたの!ほんと、大変だったなー」


何か分からないけど、俺の知らないところで凄くお世話になっていたらしい。


「えっと、ありがとう?」

「うん!だからね?成海君からのお礼が欲しいな〜」

「お、お礼?」

「そう。成海君にしか出来ない方法で」

「・・・アカリだけズルい。」

「勿論、私にもくれるわよね?」

「え、え、え!?」


三方から期待の眼差しで見つめられる。そんな期待されたって俺は何も返せないぞ。


返答に困った俺が出した答えは・・・。


「一日待ってくれ!!」


それだけ言うと三人から逃げ出す様に教室を飛び出た。



♢♢♢♢♢♢




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