第7話 君は変わらない 朱里Side

『5月16日午前7時のニュースです。なんと街中で運命の人とを繋ぐ赤い糸が見える人が続出してると言う不可思議な事態が起きてる模様です ——』


朝、リビングに入った時に聞こえた女子アナウンサーさんの朗らかな声。その声に釣られる様にテレビの画面を見る。


「・・・赤い糸?」


確かに聞こえたその単語に私はテレビの画面を凝視した。皆が見えない赤い糸で繋がってると聞くけどそれが見える様になったと言うの?じゃあ、私にも・・・・・。私は自分の小指を見つめる。でも変化が見受けられなかった。もしかして赤い糸は特定の人しか出ないのかな。まぁ、赤い糸が見える方がおかしいもんね。そんなの迷信だもん。でももし、その相手が彼なら・・・。


♢♢♢


私と彼が出会ったのは中学三年生の時だった。同じ学校なのに名前どころか顔も知らない赤の他人同士。一生交じり合う事なんてないと思っていた。


でもある日を境に私の中で彼の存在が大きくなった。


「ねーねー、彼女〜。これから俺達と遊びに行かない?」

「え、でも授業あるし・・・」

「えぇいいじゃん〜。俺達に付き合ってよ」

「ちょっと、何やってるんですか!?」


学校の校門前で高校生らしき二人の男の人が一人の女の子に絡んでいた。最悪なことにその日は生徒指導の先生が立っておらず、他の人達も遠巻きに観察するだけで助けようともしない。だから私が行くしかなかった。全身が震えてることに気付かない振りをして正義の真似事如く私は勢いよく駆け出す。


「お、この子の友達〜?」

「かっわい〜!君も俺達と一緒に行く?」

「行きません。私達、今から授業があるのでお引き取り願います」

「見掛けによらず気が強いね〜」

「まぁまぁ良いじゃん!楽しい思いさせてあげるから行こうよ」


あぁもうしつこい!!こう言う人達って周りが迷惑だと思ってるって分からないのかな?


男の人達の言動が嫌になった私は頭を押えて俯向いてしまう。だから片方の男性の手が伸びてきてもすぐに対応する事が出来なかった。


すぐに後ろへと下がるけど足が思うように動くことはなく下がれたとしてもたったの一歩だけで男性との距離は縮まる一方だった。


でも男性の手が私の腕に触れることはなかった。


「スミマセーン、そこ通行の邪魔なんで退いてくれませんかー?」


突然、うちの学校の制服を着た男の子が私と男性の間に割り込んできた。しかも男の子のカバンは男性の顔面にもろに当たっていた。


「てめぇ!何しやがる!!」


もう一人の男性は男の子に掴み掛かってそのまま殴ろうとしていた。


・・・私の事を助けてくれたんだもん。きっと強いよね。


不良は正直苦手だ。自分より弱い者を見つけ横暴に振る舞う。だから目の前の彼も見掛けによらず相当な実力者なのかもしれない。一応二次被害が起きない様に距離をとって女の子を先に教室に向かわせた。私も先に行っても大丈夫と思ったけど元はと言えば私達の間に入ったのが原因だし最後まで見届ける結論に至った。もしもの時はちゃんと自分の身を守れる様にカバンをそっと抱き締めて目を瞑った。


暫く鈍い音が響いていたけど徐々にそれは消えていった。恐る恐る目を開けるとそこには完膚無きまでに殴られたのであろう人が倒れていた。


「・・・・・え?」


でもその人は私達の間に入ってくれた男の子だった。


顔をあげると肩で息をしてるけど無傷の男の人達が立っていた。


「ハッ、よわっ」

「ザコな癖にイキってんじゃねぇよ」


男の人達はそれだけ言うと背を向けて帰ってしまう。


「あ、の・・・大丈夫ですか?」


ゆっくりと近付き声を掛けるけど男の子からの返事はない。


「け、喧嘩に負けることなんて誰にでもありますよね!」


私なりのフォローのつもりだったけど男の子は眉間に皺を寄せたままそっぽを向いてしまった。


「・・・どうせ俺は弱いよ」


男の子は私の言葉を嫌味と解釈したみたいで不機嫌そうに呟く。


でもだとしたら分からない。


「自分でそう思うのならどうして私をほっとかなかったんですか?」


弱いなら私のことなんかほっとけば良かったのに。だって私達は他人なんだから。


「・・・邪魔だったから」


男の子はそれだけ言うと立ち上がって門をすり抜けて昇降口へと歩いて行ってしまった。


「邪魔って、私そんなに邪魔なとこに居たかな?」


ちょっと変わってる私と同じ正義のヒーロー気取りの男の子。ちょっと痛い感じがするけどそれでも今回の出来事は彼の事を気になりだすのに充分な事だった。


「・・・お礼、言い忘れちゃったな」


そんな私の呟きは誰かに拾われることなく消えていった。


♢♢♢


「きっと成海君はその事忘れてるだろうなぁ」


あれから私はとことん成海君の事を調べた。成海君と同じ高校に行ける様に努力して受かった時は嬉しかったな〜。しかも同じクラスなんて夢みたい!でも声を掛けた時の第一声が『誰?』だったのはショックだったけど。でもいいもん!恋は攻めてこそだから。絶対に成海君を惚れさせてやる!


私は新たな意気込みを胸にしまいカバンを持って玄関に向かう。



「お嬢、今から学校に向かうんですか?」


玄関に向かったところで後ろから声が掛かった。


「うん、そうだけど」

「それならばあっしが車を出します。また変な野郎に絡まれたらなりませんので。まぁ、その野郎が二度とお嬢に手出しせぬ様、この東道とうどうが責任持ってカマシを入れといたんで安心してください」

「東道?やりすぎは駄目だからね?あくまで私は普通の高校生活を送りたいんだから」

「うっ、す・・・」

「うん、良い子。じゃ、行ってきます」


項垂れる東道の頭を撫でて玄関のドアを開けて外に出ると後ろから東道の元気な声が響き渡る。


「おはよー、朱里」

「・・・相変わらず東道さん元気だね」


外に出ると親友の翠とユズが立っていた。


「うん、恥ずかしいから止めて欲しいんだけどね」

「ま、愛されてるって事で!」

「ん〜。あっ、今日のニュース見た?」



二人に今日のニュースの事を話したら信じられない出来事だと言われた。確かにそれに関しては私も思うから反論は特になかった。だからまさかこの後、本当に赤い糸が出現してその繋がってる相手が私の意中の相手なんて思うわけなかった。



♢♢♢♢♢♢


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