第6話 人生終了?

今日はやけに視線を感じる。どうやら俺は自分が気付かない内に何か栄光を残したらしい。


ピリッと廊下の提示板に貼り出されてる紙を外す。紙にはヤリチン野郎と書かれていた。


グシャッ


「巫山戯やがって〜〜〜!」


誰がヤリチン野郎だ!俺は女子と付き合ったこと無ければソウイウコトをしたこともねぇんだぞ!


俺はビリッ、ビリッと乱暴に紙を外していく。


「大変な事になってる様だね」

「・・・あ?」


紙を外してると横から嘲笑うかの様な声が聞こえて眉間に皺を寄せたまま振り返る。


「あっ、お前は・・・」


するとそこには名前は知らないが昨日の時の男が他、数人を連れて立っていた。男と並んで立つ三人は結構派手めな見た目をしているが少し後ろの男と女は地味な優等生タイプで無理やり同伴させられてる感ハンパない。


「全く。とんでもないことをする奴が居るもんだ」


男は口元を手で隠しながら目の前の提示板を眺めていた。しかし微かに手の間から見える口元は笑っていた。


「・・・昨日振られたからって随分と幼稚じみた嫌がらせをするんだな」

「っ、ふん!何の事だ?」


そう。コイツは昨日浅倉さんに振られたのだ。しかし諦めきれなかったコイツは脅してまで付き合おうとした。そこで間に入った俺に邪魔されて根に持ってるのだろう。


「君は浅倉さんだけじゃ満足出来ずに新田さんと神楽さんにも手を出してると聞くぞ。そんなんだからヤリチンと言われるんじゃないのかな」

「はぁ?別に手ぇ出してないけど」


そう言った瞬間、男は目を見開き信じられないと言った様に声を押し殺しながら笑った。押し殺してる様で声が漏れてるが何か嫌な予感がする。思い過ごしであって欲しいのに何故そう言う時ほど当たってしまうのだろうか。俺の考えは見事に当たり男は息を大きく吸うと、


「おいおい、聞いたか皆!!!」


その場に居る全員に聞こえるように叫んだのだ。


「コイツは昨日、浅倉さんを襲おうとしていたんだ!俺が止めに入ったから未遂で終わったが少し遅れていたと思うと・・・」

「は?何言ってんだお前」


まさかコイツ、昨日の自分を俺に重ね合わせたのか?


男の言葉にその場に居る奴らはざわめき始める。普段なら言いたい奴には勝手に言わせとくがこれはほっといた方がヤバいだろ。その間にも男はにやにやとしたり顔をしているのが余計に腹立つ。


さて、どうするかと顎に手を添えて考え込んでると向こうからこちらに近付いてくる複数の足音が聞こえてくる。


「これ、なんの騒ぎ?」

「・・・さぁ?」

「な、成海君!」


新田さん達三人がコツッ、コツッと心地の良い音を響かせながら歩いてきていた。先程までうるさかったのに三人が来た途端に皆が無言のまま道端を開ける。ただ歩いてるだけなのになんだ、この雰囲気は。三人の佇まいはカースト上位者にも負けていなかった。


「・・・何よ、これ」


新田さんは提示板に貼られてる紙を一枚外すと俺と紙を交互に見始める。


「・・・アンタ、何人ものの女と寝たの?」

「寝てねぇよ!!」

「でしょうね」



不名誉な事を言われて咄嗟に否定の言葉が出たが新田さんの中で俺が端からやってないことは決定事項らしくすぐに肯定されてしまう。まさかそう簡単に信じて貰えるとは思わなかった。しかし男は新田さんのその言葉に納得がいかないらしくすぐに食って掛かった。


「新田さん!君はその紙を見て何も思わないのか!彼はだな、君の友達を無理やりっ!」

「アンタ、誰だっけ」


新田さんのその言葉に今度こそ男は何も言えないみたいだった。俯き悔しそうに下唇を噛んでいる。


俺も人の事言えないけどコイツ、一応カースト上位の奴だからな?


「私、成海君に何もされてません!成海君は逆に私を助けてくれたんです!そ、それに成海君になら何されても私は・・・」


その続きは聞こえなかったが女子の殆どが何故か赤面をすると言う事態が起きていた。



「コイツ、意気地なしだからまず女に手出し出来ないでしょ」

「・・・うん、絶対に無理」

「で、でもそんなところが素敵だよね!」


“ねー”と笑いながら俺の悪口に花を咲かせる三人。え、なんで俺ディスられてんの?


「ふんっ!君たちも随分と物好きの様だ。ま、せいぜい中位通し戯れとけよ」


そう言ってズカズカと自分の教室へと消える男の後ろ姿を俺達は暫く見つめていた。男が消えたことで周りも其々の教室に入っていき、廊下には俺たちしか居なくなってしまう。


「逃げ足は速いんだから」


新田さんは腰に手を当てながら男の教室を睨み付ける。それは確かに同感だ。


「成海君、大丈夫?」

「あぁ。・・・三人とも、ありがと」


正直今回ばかりは俺一人じゃどうにもならなかったかもしれない。最悪の場合は退学になっていたかもな。そう思った俺は素直に三人に感謝する。しかしその後浅倉さんはぱちくりと瞬きをして首を傾げる。


「え、何言ってるの?まだ終わってないからお礼は早いんじゃないかな?」

「は?い、いやもう向こうも関わってこないと思うけど」

「もう!成海君は優しいなぁ〜。でも悪い子にはお仕置きしないと、でしょ?」


ギュッと俺の両手を包むように握る浅倉さんは笑顔だが威圧感が凄い。


もしかしてこれは・・・・。


「浅倉さん、怒ってる?」

「あちゃー、朱里ガチで怒っちゃったよ」

「・・・うん。これは不味いね」

「え、え、え?」


何が不味いのか二人の言ってる意味が分からない俺は只々困惑していた。


「朱里、程々にね」

「うん、任せてミドリ!」


新田さんに親指を立てた後、浅倉さんはすぐにどこかに連絡しだした。


暫く電話でやり取りをしていた浅倉さんだが終わったと思った途端、こちらを見るとき滅茶苦茶笑顔でそれが余計に怖かった。


二人は憐れむ様な目で遠くを見つめていたがその理由を知らない俺は戸惑いを隠すことが出来ずに居た。




♢♢♢♢♢♢


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