第5話 絆されてんのは・・・
俺は今日、彼女達とガチで向き合わなければならないのかもしれない。
でも必ずしも来るとは限らない。何故なら今は昼休みの真っ最中。彼女達が楽しそうに話していた時に声を掛けたから俺の呼び出しに従うなら話を中断させなくてはならない。
でもまぁ、来ないのなら好都合。俺もお前らとの関係はここまでにさせて貰う。
ふっふっふっ!と彼女達が来ないことを見越しながらほくそ笑んでるとガチャッと屋上の扉が開く。
「うわっ!マジで開いてるじゃん!」
「やっぱりダメだよ!此処に入ったこと先生に知れたら不味いよ!」
「・・・・・あ、居た。」
新田さんを先頭に屋上へと顔を出した三人に開いた口が塞がらなかった。
・・・なんで来たの?
「・・・君も不良だね」
「成海君、話って何かな?」
「此処までわざわざ足を運んでやったんだからつまんないことなら承知しないわよ!」
・・・いやマジでなんで来たん?
「でも、嬉しいな。成海君から話し掛けてくることなんてそんなにないから」
胸に手を当てて微笑む浅倉さんにいたたまれなくなった俺はどう話を切り出すか悩んでしまう。本当なら新田さんあたりが駄々をこねて此処に来ない選択肢もあった筈だ。それなのに三人一緒に此処まで来るなんて本当に仲の良い・・・・・ちげぇだろ、俺!
なんで三人一緒に呼び出したんだ!三人一緒に来ちまったら逃げることなんて無理だろうがよ!一人でも手こずるんだぞ!
俺は昼休みすぐの自分の行動を悔やんだ。
「・・・で、話って何?」
神楽さんが俺の顔を覗き込みながら問う。他の二人も俺の回答を待ってる様でジッと見つめてきた。そんな三人を見て腹を括るしかないと思った俺は大きく息を吸って口を開く。
「・・・ま、マドレーヌのことなんだけど」
たったそれだけしか言ってないが三人は分かりやすくそわそわしだす。
「お、美味しかったかな?」
「え、いや…」
「並ぶの大変だったんだからね」
「そ、それはご苦労様です」
「・・・気に入ったならまた買ってくる」
「うん…ありがとう。気持ちだけ受け取っとくよ」
俺が食べたと疑わない三人に頭が痛くなる。いや、実際食べて美味かったのは事実なんだけど、俺は断固として食べる気なかったんだよ。未来先輩が無理やり俺の口に入れてくるから食っちまっただけなんだ。しかし食べてしまったらあまりの美味しさに仰天しそうになって俺の為にここまでしてくれた三人につい絆されてしまいそうになっちまった。一生の不覚だ!だから今日こそ、あんなこと迷惑だから止めさせようと此処に呼んだのだがそれも無理そうだと三人を見て瞬時に理解する。この三人はこうと決めたら曲げることなど中々しない頑固さがあった。良く一緒に居ると考えとかが似てくると聞くがそんなとこまで似なくても良いのにと思う。
「・・・美味かったから改めて礼を言おうと思って」
ここではっきりと言わないのが俺の駄目なとこだと思う。そんなんだからクラスメイトに『陰キャ』とか『普通人間』とか好き勝手に言われんだよな。俺もいつか男の中の男と言われてみてぇな。
「そんな!私達は好きでやってるから別に良いのに!」
浅倉さんは手を顔の前でブンブンと振る。
「・・・意外と律儀だね」
神楽さんはクスッと目元を微かに緩ませる。
「遅いっつーの。でも…気分によってはまた持って行っても良いけど」
新田さんは腕を組んでそっぽを向く。しかしその後、小声で呟きながらこちらをちらっと見た。
「あぁ、うん・・・」
また失敗だ。
俺は三人の顔を見て表情が強張りながらも頷いて見せた。
♢♢♢♢♢♢
「じゃあなー、成海」
「おう」
友人に手を振って俺もカバンに教科書を詰め帰り支度を始める。赤い糸が発生してから元々彼女が居なかった奴らも続々恋人が出来、最初はそんなに好きでもなかったのにお試しで付き合ったらマジで好きになった奴が大半を占めた。
赤い糸の影響力ヤベーな。
今まで彼女が居なくてその寂しさを埋める為に集まっていた友にも彼女が出来て全員彼女と帰ったとこだ。帰るときにこちらを憐れむ様に帰って行ったが声を大にして言いたい。
俺は!彼女が出来ないんじゃなくて!作らないんだ!!
・・・そんな事を言っても虚しいのには変わらない。俺は深く溜め息を吐くとカバンを持って教室を出た。
「俺と付き合ってください!」
・・・マジか。
今時間は殆どが部活で姿を現さないとは言え、俺みたいに帰宅部の連中が姿を現さないとも限らないのに此処で告白とは大胆すぎないか?
昇降口に着いた途端に聞こえたのは男の切羽詰まった様な声だった。女の方はすぐに隠れてしまったから顔は分からないが男の方は中の上くらいの爽やか系の男だ。
他人の告白現場なんて正直どうでも良いけどあそこを通るのは勇気が必要だ。仕方なく終わるのを待っていたのだが。
「ご、ごめんね?気持ちは嬉しいんだけど私、好きな人が居るの」
聞いたことのある声が聞こえて下駄箱の影に隠れて覗き込む。
そこには今日は珍しく一人なのか浅倉さんが立っていた。
流石は浅倉さん…。赤い糸関係なしに告られるとはすげぇな。浅倉さんは三人の中でもっとも頻繁に告られると聞く。きっと滲み出る雰囲気とかがそうさせてるのだろう。
しかし、浅倉さんか。面倒な事になりそうだし今日は上履きのまま帰るか?
ゆっくりと頭を引っ込ませて引き返そうとした時。
「そこをなんとか!!」
その声に吃驚してバッと再度振り返ると男が浅倉さんの腕を掴んでるのが見えた。
「お試しでも良いから付き合ってよ!絶対に好きにさせるから!」
「こ、困ります!」
なんてしつけぇ男なんだ。他の奴らは膝を突いて終わるが今回はそうもいかなそうだ。
「本当に止めてください!人を呼びますよ!?」
「やれるもんならやってみろよ!此処でお前を襲って後から誘惑されたと言っても良いんだぜ!?」
「おい」
つい飛び出してしまった俺から発せられたのは自分でも驚くくらいのドスの効いた声だった。
「成海君!?」
「お前、誰だよ」
「あんま俺のツレに触れないでくれる?」
男の質問に答えることなく浅倉さんの手を引いて玄関に向かう。
「今、彼女は俺と話してたんだ!お前こそ勝手に入ってきて彼女に触ってんじゃねぇ!」
「・・・話す?お前が一方的に喋ってただけだろ。お前は振られたんだからさっさと他の奴らみたいに黙って膝を突いとけばいいんだよ」
そう言って今度こそ俺は浅倉さんの手を引いたまま外へ連れ出した。
「な、成海君…?成海君!」
「っ、ごめん」
無我夢中で歩いてた俺は浅倉さんの手を未だに離してないことにようやく気付く。そっと離すと俺達の間には沈黙が流れた。
「・・・浅倉さんが困ってる様に見えたから。でも迷惑だったならもうしない」
「ううん!成海君、格好良かったよ!・・・でも良いのかな」
「良いんじゃない?どう考えてもあっちが悪いんだから」
絶対に悪いと思える相手の事を気にするなんて良い子過ぎるだろ。そんなんだから、あんな面倒くさい男に狙われるんだろう。ほんとあの時の俺、ナイス!でもヒーローの真似事なんて今回限りでお断りだけどな。
「いや、そうじゃなくて・・・」
「え?」
浅倉さんは口籠りながら俺を見つめてきた。相手を心配してるわけじゃないってなら何を心配してると言うんだ。
「彼、カースト上位の人なの」
「・・・は?」
「彼ね!カースト上位で周りからの人望が厚いの!!」
はぁ〜〜〜〜〜〜!?
浅倉さんのまさかの言葉に俺が膝から崩れ落ちてしまう事態が発生してしまった。男に膝を突けとか言っときながら俺が突いてしまうことになろうとは。
「し、知らなかったんだね」
「なんで、言ってくれなかったんだよ・・・」
「ごめんね?言う暇なくて」
あぁ、明日から俺は虐めのターゲットになるのか?もう俺に平和な日々は訪れないのか?
「な、成海君・・・」
「はぁ…。まぁ、いっか。」
「え?」
「これからどうなるかなんて明日にならないと分かんないしな。浅倉さんも無事だったし。これからは誰かと居た方が良いよ。・・・じゃ、また明日」
本当は泣きたい思いだったがこれ以上情けない姿をクラスメイトに見せるわけにはいかなかった。だから俺は前を向きながら手だけをひらひらと振りながら歩くのだった。
「ほんと、成海君は変わらないね。なんだかんだ助けてくれるところ、好きだな・・・」
浅倉さんが俺の背中を見つめながらそんな事を呟いてたなんて今の俺が知る由もない。
♢♢♢♢♢♢
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