第4話 バイト
「ありがとうございましたー!!」
店に居る残り一人のお客さんを捌くとコンビニには物静けさが訪れた。何もすることなく休憩室で休ませて貰おうと奥のドアを開けるとそこには赤毛の髪をポニーテールにした女性がガサゴソとテーブルの上を漁っていた。
「な、何やってんすか!未来先輩!」
そこにはどこから持ってきたのかマドレーヌを両手に持ち、口いっぱいに頬張るバイトの先輩、
「フォゴ…フォゴフォゴ」
「何言ってるか分からないんで飲み込んで貰っていいすかね」
そう言えば未来先輩は仕方ないと言ったように懸命に飲み込みだす。
たくっ…。しかし、これはどこから持ってきたんだ?まさかまた、商品棚からくすねてきたんじゃないだろうな。でもこんなものうちにはなかったはず。箱に書かれてる店名を読むと此処から少し離れたところにある有名なスイーツ店だった。あそこの店気になってるんだけどいつも行列ができてて未だに行けてないんだよな。てかなんでそこのスイーツを未来先輩が持ってんだ?まさか、並んだのか!?あの行列を!?あの面倒くさがりの先輩が!?
「ふぅ〜」
「・・・先輩、このスイーツどうしたんですか」
スイーツの箱を抱えて聞くと先輩は少しの沈黙の後、親指を立てて言った。
「貰いもんだ!」
先輩があまりにも清々しく言うもんだからこれ以上何も言う事が思い付かずに頭を抱えてしまう。
「せ、先輩…。俺、言いましたよね?幾ら自分のであっても一応他の従業員に知らせてくださいって」
「あぁ、それなら問題ない。これは裕介クンのだからな!」
「大問題ですよ!!」
これ俺のだったのかと残り少なくなったマドレーヌを見つめる。でもだとしたらこれはどこからなのだろう。俺は誰かに感謝されるほど何か功績を残したわけでもないぞ?
「でも裕介君があんなカワイコちゃん達と知り合いだったとはね〜」
「は?」
「ちょっと前に此処に訪ねてきた三人の女の子達が居るのだよ」
三人の女の子達…?三人って言って真っ先に思い浮かんだのは此処に来るまで好戦的な目のまま離してくれなかった学校のマドンナ達だった。
「先輩・・・」
「んぇ?」
もう一個と、マドレーヌに手を伸ばす先輩の手をガシッと掴んだ。先輩は俺を見上げ瞬きを数回していたがそんなの知るか。
「今食った奴全部吐き出してください」
「は、?何言ってんだ?」
「さっさと全て元通りにしてください!!」
「ははっ…裕介クンが冗談言うなんて珍しいじゃん・・・ちょ、裕介クン?目が据わってるけど大丈夫か?」
ずいっと近付く俺に先輩は体を後ろへ引くが距離はそんなに開くことはない。逆に距離は着々に縮まっていった。
「わ、悪かったって!そうだよな、裕介クンだって一人の男の子だ!あんな美人からの貰い物は独り占めしたいよな!!」
その言葉に俺は動きを止め、壊れたロボットの様な動きで先輩を見上げる。先輩の眉は下がり口元はピクピクと動いていた。
「・・・貰い物?ふざけんなよ。アイツらどこまでもしつこく付いてきやがって。先輩、これ全て本人達に返しとくんで早く出してください」
「いやいや、もう食っちまったから無理だって!大体、キミと彼女達に何があったんだい?」
先輩が俺の肩を押し椅子に座れと促す。仕方なく近くの椅子に座り事の発端を話そうと口を開いた。
「先輩は今朝のニュースを知ってますか?ほら、赤い糸が運命の人と繋げてくれると言う」
「ん〜、私テレビ見ないしなー。で、それが?」
「・・・俺にも赤い糸が繋がっていたんです」
「へぇ?良かったじゃん。裕介クン今まで彼女居たことないんしょ?」
先輩は自分で聞いといてそこまで興味が沸かないのか煙草を吸いながら耳だけをこちらに傾ける。
此処は禁煙っすよとか、余計なお世話ですとか言いたいことは色々あったが今ここで話の腰を折るわけにはいかないと黙っとくことにした。
「でもその相手が・・・三人居たんです」
指で3を表す俺に先輩は煙草から口を離し目を見開く。流石の先輩でもこれには驚くよなと胸の内で苦笑していると突然先輩はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべてきた。
「へ〜?三人だなんて良かったじゃん」
「よ、良くないっすよ!そのせいで付きまとわれて困ってるんですよ!?」
「なんとも贅沢な悩みですこと」
あぁ、やっぱり言う人を間違ってた。どんなに追い込まれててもこの人にだけは言ってはいけなかったんだ。今もによによと笑ってる先輩をジト目で睨み付ける。
「一応聞くけどさ、裕介クンは三人の中で誰がタイプ?」
前髪をくるくると弄りながら聞いてくる先輩の目は俺でたくさん遊んでやろうと言う意思が見え隠れしていた。
「そんな事言われても分かりませんよ。俺、彼女達とそんなに親しくないんで」
そう素直に言っただけなのに先輩はつまんないと言った様に椅子に凭れ掛かって頭の上で手を組む。
「じゃあ、金髪の子は?おっぱいデカイじゃん」
「おっ!?・・・彼女は多分俺をからかってるんだと思います。目が合えば暴言を浴びせてくるんで。」
ツンデレと言えば響きが良いかもしれないがあれをツンデレの種にしたくない。
「じゃあ、おっとりしていて礼儀が正しいあの子は?」
「彼女ともあまり接点はないです。ただ、テスト期間が近付いてくると必ずと言って俺のところに来るんですよね」
わざわざ休みの時間を削ってまで来なくても良いのにと何度思ったことか。
「猫目で小動物みたいな子柄の女の子は?」
「彼女とは喋った記憶がないに等しいです」
神楽さんは無口だしこっちから挨拶してもこれと言って良い反応をしてくれたことないんだよな。だけど図書室で本を読んでるといつの間にか隣に居たりするが。
「・・・成る程ね」
先輩はボソッと呟くと遠くを見つめながら何かを考えだした。そしてバッとこちらを見たかと思うと満面の笑みで言うのだ。
「もう四人で付き合っちゃえ!!」
本当にこの人は素っ頓狂な事を言う。この人の辞書に『常識』と言う文字はないのか。
「そんな事出来るわけないでしょ。俺の話聞いてました?俺は別に三人の事が好きで先輩に相談してるわけじゃないんですけど」
「でも、片想いの子に振られたんだろう?だったら新しい恋をするのも良いんじゃない?」
「っ、な、なんでそれを・・・。とにかく俺は、赤い糸とか関係ないんで好きでもない人と付き合おうとは思いません」
「・・・ふーん、キミも存外面倒くさいね」
そう言った先輩は再度煙草を口に咥えた。
♢♢♢♢♢♢
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