第3話 失恋
昼休みは好きだ。唯一自分で過ごし方を決めれる、一人になれる時間だから。だけどそんな俺の楽しみは奪われてしまった。俺の席を囲む様に座って弁当を食してる三人によって。
赤い糸は今も消えることなく俺達を繋いでいる。だからと言って離れられないわけではない。赤い糸なんてある様でないみたいなものだからいつでも離れられる筈なのだ。それなのにどうして全員、俺から離れようとしないんだ。
「・・・成海君、ちょっと良いかな」
芦途さんは俺の席に来るとどこか真剣な眼差しで弁当を食べてる俺達を見下ろしてきた。せっかくの芦途さんの誘いだから行きたいんだが一応彼女達も居るからちゃんと断りを入れるのが礼儀だろう。ちらりと三人を見やると伝わったのか手を振って応じてくれた。そこまで俺を繋ぎ止めるわけではないんだと安心して芦途さんと一緒に教室を後にする。
芦途さんとやって来たのは屋上だった。屋上は確か立入禁止だった筈だが何故かテープが外されドアが開いていた。
「芦途さん、話って?」
そう聞いてみても芦途さんは空を見上げているだけでこっちを振り向こうともしない。不安になってもう一度呼ぶけれどやはりどこか上の空で。
「・・・芦途さっ!?」
芦途さんが振り向くのと俺が名前を呼ぶのはほぼ同時だった。こちらを振り向いた芦途さんは困った様に笑っていた。いや、そんな事はどうでも良い。問題はどうして芦途さんが泣いてるのか、だ。
「運命なんてやっぱり嫌い・・・。赤い糸なんて信じたくないよっ!」
ポロポロと涙を流す芦途さんに胸が締め付けられる様に苦しくなる。芦途さんにこれ以上泣いて欲しくなくて俺は自分の想いを言おうと口を開く。
しかし。
「聞きたくないっ!聞いてどうなるの?いつかは離れ離れになっちゃうのに…」
最後まで言わせて貰えなかった。運命なんてどうにでもなる…そう言いたかったのに芦途さんの続く言葉に呑み込むしかなかった。
「私ね、婚約するんだ。多分、その人が私の運命の人。その人の事を考えると小指がうずくの。だからね、」
『成海君、ごめんね?』
そう言って芦途さんは俺の横を通り過ぎ屋上の入り口ドアに手を掛けた。
「成海君も運命の人とお幸せにね。でもダメだよ?いつかは一人に決めなくちゃ」
今度こそ姿を消す芦途さんをみても俺は暫く動く事が出来なかった。
俺は、振られたのか…?
思ったよりその事実を受け止められてる自分が居た。
♢♢♢
午後はやはり眠くなる。周りを見れば数名教科書に隠れて眠っていた。ちらりと斜め上の席の芦途さんを見る。芦途さんは姿勢が美しくつまらない授業だろうがマジメに黒板の文字をノートに写し込んでいた。
あぁ、やっぱ好きだな…。でも忘れねぇといけないよな。
俺は頭を振ってつまらない先生の授業に集中することにした。
本当に今日は長い一日だった。長すぎて干しからびそうだった。しかし俺の一日はまだ終わらない。これからコンビニでバイトがあるのだ。一人暮らしすることになって頼る人が居なくなった俺は家賃代を稼ぐ為に毎日の様にバイトに明け暮れる日々を送っていた。
これじゃあ、昔と差ほど変わんねぇな。昔は勉強ばかりだったが今はバイトで友人と遊ぶ機会があまりないしこのままじゃ彼女が出来ても一緒に過ごす時間がないんじゃないかと不安になるが生活の為だ!それに、本当に俺のことを愛してくれてるのならそれに理解を示してくれるだ。
うんうんと頷いて家路に着いたところで後ろを振り返る。
「・・・さっきからなんで着いてきてるの?」
先程から俺の後ろを無言で付いてきてる学校の美人三人衆に問えば三人とも分かりやすく視線を逸し始める。
「な、何の事かな」
「つ、ツイテキテナイワヨー」
浅倉さんは自身の髪を触って、新田さんは腕を組んでカタコトで誤魔化してるがなんとも下手な。その中で特にこれと言って変化が見えない神楽さんがてちてちと俺に近付いてくる。
「・・・まだ、返事貰ってない」
「ん?な、なんの?」
「・・・君が恋人になってくれるか」
あぁ〜、成る程・・・は!?
「いやいや、ちょっと待って!なんでそうなるんだ!?まさか運命の赤い糸を信じてんのか!?そんなのあってもないようなものだし無理して好きでもない奴と付き合うことないんじゃないかな!?」
早口でまくし立てる様に話す俺に神楽さんは瞬きをすると首を傾けた。そしてとんでもないことを言うのだった。
「・・・私は君で嬉しいかった。君の事、ちゃんと異性として見てるから。・・・今朝もちゃんと言ったよね?」
「・・・・・聞いてない」
「ん。そだっけ」
神楽さんは『ま、いっか』なんて呟くけど俺からしたら全く良くないんだが!?異性としてって俺のことを意識してたって事だよな?いつから?全くそんな態度とったことなかっただろ!
「わ、私も!」
遠くで俺達の会話を聞いていた浅倉さんがテッテと歩いてきて上目遣いで俺を見つめて言う。
「今朝も言ったけど相手が成海君で良かった。だって、私、その…ごご、ごめんなさい!やっぱり言えないよ〜!!」
浅倉さんは顔全体を真っ赤に染めてその場に蹲るが態度からするに朝倉さんも俺のことを意識してたと言うことになる。
・・・・・まさか。
「に、新田さんも俺のことを?」
「はぁ!?誰がアンタの事なんか!自意識過剰すぎるんですけど〜」
「・・・大丈夫。ミドリ、ツンデレって奴だから」
「ユズ〜!!」
神楽さんがピースをしてくるが全然大丈夫じゃない。新田さんなんて俺と目を合わせるなり暴言を吐いてきたじゃないか。あれは意識してる様な態度じゃなかった筈だ。
もしかしてあれは照れ隠しだったのか?だとしたら大分良・・・・・くない!只々怖いんだけど!俺は今まで照れ隠しという名の暴言の被害に遭ってたのか!?可哀想すぎるだろ、俺。
「俺、好きな人居るよ?」
もう失恋したが俺のことを諦めさせるにはこの方法しか思い付かなかった。
「だから?」
俺の発言に対して答えたのは意外にも新田さんだった。
「好きな人が居るからって諦める理由にはならないよね」
浅倉さんもさっきまであんなに真っ赤になってころころと表情を変えていたと言うのに今俺を真っ直ぐ見つめる瞳は何かを決心したかの様なものだった。
「・・・そう言う訳だから、ヨロシク」
何が宜しくなのか分からないんだけど。
俺を狩る気満々な三人の視線を受けた俺は静かに溜め息を吐くのだった。
♢♢♢♢♢♢
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