第5話不穏

「・・・ガッ・・・ハ・・・」


ゼパルは辛うじて体を保っていた。魔剣、ヘブンズギルで急所を貫かれてなお、保っていたのは奇跡といっていい。


「ゼパル様・・・」


「・・・ク・・・ハハ」


痛みに苦しみながらゼパルは笑っていた。初めて人間に敗北したのだ。しかもまだ自身が生きている、という事はまた戦える、という事。


この世界に堕落した後ゼパルはヘブンズギルの所有者を何人も葬ってきた。しかし、負けたことはなかった。


期待せず生きてきた彼は歓喜していた。


「ふうん・・・あなたもたまには死にかけることもあるのね」


「貴様・・・真祖の姫君か・・・?」


先ほどまでとは違いゼパルは酷く不機嫌そうに顔を向ける。


しかし、いまはマトモに体も動かせそうにない。


「カーリ様。いまは少し自重してくださいますか?騎士様は酷く衰弱しておられます」


「その割には元気そうじゃない?まあ、あなたに免じてここは自重、してあげる」


カーリはその部屋を後にすると、ゼパルは呟く。


「万全であれば、その舌切り落としたというのに」


彼はゆっくりと目を閉じた。














「報告で聞いたゼパル、と名乗った悪魔だが」


ギルドで依頼報告をしたあと、コバヤシはギルガメッシュに呼び出されていた。


「その悪魔は恐らく、魔王の直属の騎士だ。正直、お前が倒しきれているとは思えぬ」


「そうなのか」


どうりで強かったわけだ。魂を喰らう魔族、かつて天使と呼ばれた悪魔たち。


「ギルガメッシュ様、そろそろ本題を話しましょう」


「おお、そうであったな」


・・・?


そういえば今日はスラ子が呼ばれていない。


俺だけに何か用があるんだろうか。


「今日は勇者パーティに同行し、依頼をこなしてもらいたい」


「スラ子はなにか別に用があるのか?」


サナタリアはこれに答えるように言った。


「彼女は別に依頼をしています。今回はあなたの実力をはかるためでもあります」


「了解した」


「うむ。素直なのは良いことだ。今回の依頼はムシュフシュの討伐だ」


ムシュフシュ、たしか大きなものは小型のドラゴンにも相当する魔獣だ。


毒のブレスを吐くこともある。


「もうニイナ達、勇者パーティには伝わっています。正門で合流してください」


「良い報告をまっているぞ」


「わかった」


最低限の言葉を返すと正門へ向かう。・・・勇者パーティか。俺も少しは冒険者らしくなったのかな。










そう、思った。

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