14 岸川亮 8月1日 17時30分
俺が昔好きだったのは前田由香というクラスメイトだった。
彼女は強豪バスケ部のエースで、勉強も出来て……というある種完璧な人間だった。
ルックス的にはショートカットの中性的な感じでクールなタイプだった。
どっちかっていうと男子からの人気よりも、後輩の女子から告白されちゃうようなタイプだ。
一方の俺はというと……2、3人の友達とテレビゲームに興じることが生き甲斐という、鮮やかな青春を謳歌していた。
当然、俺と彼女は生きる世界が違う訳で……彼女とは1、2年とクラスが一緒だったのだが、話したことは数える程だった(当然実務的な内容だ)。
このままではダメだ!と思い始めたのがバンドだった。当時はまだバンドやってる人間はモテる、という幻想が信じられていたのだ。
それまでもなんとなく家にあるギターを弾いていたのだが、一念発起した俺は高1の夏休みをバイトに費やし、自分だけのギターを手に入れることに決めた。
そうして始めた、時給800円の倉庫整理のバイトは一生忘れないと思う。
あれほど真剣に働いたことは他にないし、今後も恐らくないだろう。
その時手に入れたギターを今も使っていることは前にも述べた通りだ。
一念発起した高1の夏、そのきっかけの一部が彼女であることは間違いないが、本気で彼女をどうにかしようと思っていたのかは疑問が残る。
妄想の中で登場することはあったが、彼女は上流階級の象徴であり、憧れであると同時にある意味憎しみの対象でもあったと思う。
だが高3になると微妙に変化が生じた。
部活が終わってからの彼女はアンニュイな表情をしていることが多くなったことに俺は気付いたのだ。
俺が彼女の表情を明るく変えれたらどんなに幸せだろう、と思ったこともあった。
でもそれだけだ。
高3の時にはクラスも別になっていたし、接点を作る方法を思いつきもしなかった。
結局彼女が卒業後どうしたのかも知らない。
でも今、彼女のことを思い出している時、悪い気持ちはしなかった。
俺の高校時代なんて一般的に言ってクソ以外の何物でもないだろうが、彼女の存在によって美化されてしまっているのだ。
彼女は今何をしているのだろうか?
彼女も、さっき俺にぶつかりそうになってきた少女も、出来るならなるべく幸せであって欲しい。
ガラにもなく何故か今日はそんな風に思った。
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