13 前田由香 8月1日 18時15分

 電車に乗り込んでからもわたしは昔のことを思い出していた。


 中学は市大会でも優勝出来ないくらいのレベルだったけど、一応わたしはバスケの推薦で高校に入った。

 高校は毎年県大会でも良いところまで行くチームで、わたしは二年の最初からスタメンになったのだが、練習はとてもキツかった。

 わたしは昔から走るのが速かった。小学生のときはよく休み時間とか放課後にサッカーをしていたのだが、サッカー部の男子にも、純粋なスピード勝負で負けた、というような記憶はない。

 だからわたしはランニングとドライブで勝負してゆくタイプだった。

 身長は167センチあったから(今もあると思うけど) 、高い方だったけどリバウンドとかはあんまり得意じゃなかった。

 とにかくスピード勝負……は良いのだけれどテンパると、結構ダブドリとかトラベリングをしてしまうという子供のようなクセが抜けなかった。


 高3の夏、わたし逹の代で初めて県大会の決勝に進んだ。

 試合はハイスコアで拮抗しており、第4クォーターに入った時点で3点差でわたし逹が勝っていた。

 わたしはその日、絶好調で、第3クォーターまでで既に30得点を決めていた。

 第4クォーターに入って最初のプレイでも得点を決めたわたしは、さらにノって、センターライン付近で相手ボールのスティールに成功した。

 だけど、そこでゴールに向かう意識が強すぎたのだろう。トラベリングをしてしまった。

 その時の反則を知らせるホイッスルの音や、審判のジェスチャー、やたら大きく聞こえたウチのキャプテン島田の「ドンマイ!」という声とかは…今も鮮明に思い出せる。

 そのファールはわたしにとって三つ目のファールだった。

 まだ三つ目……だけど四つ目をもらってしまったらきっとベンチに下げられる。

 そのファールを、トラベリングでもらってしまったこともあるのだろう。

 その後の3分間わたしは100点満点中30点くらいのプレーしか出来ず、その間に逆転され5点差をつけられた。


 目の前の光景に取り残されていっているような感覚……すぐに元に戻せるはずなのにまったく加速しない身体。

 死ぬまで忘れない。

 結局わたしは3分後に交代し、残り2分でもう一度出場したが、元通りのプレーは出来ず、チームは2点差で負けた。


 試合後のわたしは呆然としていた。

 みんなは大泣きしていたけど……わたしにはそんな資格すらないような気がしていた。

 そんな時チームメイト一人ずつに声をかけ、慰めていた島田がわたしの方に来て言った。


「前田、あんたがいたからここまで来れたんだよ」


 ……バカか、あんたは?


「……ちがうよ。なに、言ってんの。……ごめん」


「ばか、ホントだよ。あんたがいたから勝てるチームになると思ったし、あんたに勝たせてやりたくてみんなやってきたんだよ。……ありがとね」


 そう言って島田がわたしの肩に手を置いてきたので、わたしの感情は溢れ出し、島田を思いっきり抱きしめワンワン泣き出した。

 ずっとわたしはわたしの為だけにプレーしていたんだってこと。島田に言われたその時に、初めて気付いた。

 そんなわたしを、許し、支えてくれた島田に対する感謝と、人間として敵わないな、という心地好い敗北感。


 そんな感情がないまぜになって、いつまでも泣いていたら、他のチームメイトもアタシ逹の周りに来て、「いつまで抱きついてんだよ」って言ってきた。

 その優しい声に「ああ、わたしは島田だけじゃなくてチームメイト皆におんぶに抱っこだったんだな」って分かって余計にワンワン泣いた。

 練習以外で遊んだことなんて、わたしは数えるくらいだったと思うけど、あの頃のチームメイトは本当に仲間だったと思う。




 あの頃のわたしから見たら、今のわたしはどう映ってるだろうか?

 唾棄すべき存在かもしれない。

 でも、あの頃があったからわたしは今も生きているし、闘うことを諦めた訳じゃない。



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