7 佐野洋平 8月1日 17時15分
「……なんだ、高橋か」
振り返ると、自分のクラスの生徒で部活の受け持ちでもある、高橋かれんが立っていた。
「ちょっと先生!?なんだ……ってヒドくない?可愛い教え子と学校の外でまた会えたんだよ、もっと喜んでも良くない??」
「可愛い……そうだな、高橋。お前はジャージが良く似合うな」
「……先生?それ、もしかして誉めてんの?」
「ああ」
「ああ、ってねえ……先生、もうちょっと女の子に気を遣えないと彼女出来ないよ~」
「ああ?そうなのか?」
「……うん、多分。まあ、でももし、ずっと出来なかったら」
「それよりお前何してんだ。部活終わったんだから早く帰れよ」
「うん、そうだね。って先生こそ何してるのよ!?先生を見かけたから私は付いてきたんだよ?」
(……何をしている?)
そんなこと分かるわけがない。分かっていた時期など一時もなかったし、俺はこれからもずっと分からないままだろう。
それとも高橋、お前は自分が何をしているのか分かっているとでも言うのだろうか?
もしかしたらそうかもしれない。俺とコイツは違う。 少なくとも俺が16、7歳の頃こんな邪気の無い話し方は出来なかった。
「ああ、ちょっとテレビが調子悪くてな。今映らないんだよ」
「……ふーん」
あまり納得のいっていない顔だ。たしかに大型電器店はもう通り過ぎてしまっていた。
「……まあアレだ。実は交差点の向かい側に美人な姉ちゃんがいたんでな。見とれてたっていうか、何とかなんねえかな~と思って見てただけだよ」
めんどくさいので適当な話をする。多少下世話な話をしておけば、コイツもあまり突っ込んで話を聞いて来たりはしないだろう。
「ふーん、へえ~……先生でもそういうこと考えるんだ。意外~」
「まあな。男ならみんなそうなんじゃないのか?」
一応教師なんだし下世話過ぎる言い方はマズイか。
「……ふーん。じゃあその人は先生のタイプだったんだ?」
「タイプっていうか、まあ美人だよな」
「じゃあ先生のタイプってどういう人なの?」
まったくコイツは……頬を赤らめてまで食い下がって聞きたい内容か?
まあ女子高で年頃の男子と接する機会もないから、男のことをなるべく知りたいのかもな。
「タイプか、あんまり考えたことなかったが、そうだな……背は高くも低くくもなく、どちらかというとやせ形、髪はショート、顔は……どっちかって言うと和風な顔立ちな感じだな」
俺は目についた高橋の特徴を挙げてみた。まあでもからかい半分、本音半分といったところか。容姿的にタイプなのは多分当たっている。
「へえ~、そうなんだ。……あれ?それって、もしかして……?」
「ん?どうした?」
「な、何でもない!私もう帰るね!」
そう言うと高橋は、急にターンして駅の方へと走り出した。
いきなりだったものだから、すぐ後ろを歩いていたギターを背中に背負った頭の悪そうな兄ちゃんにぶつかりそうになった。
高橋はあわてて頭を下げ、そのまままた駆け出してしまった。
「おい、気をつけて帰れよ!」
大きめの声で高橋に呼び掛けたが、届いたかは心許ない。
……さて俺も帰るとしよう。高橋の出現によって、自分が何を考えこの場所に来たのかだいぶぼやけてしまった気がする。
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