8 岸川亮 8月1日 17時15分
「じゃあ、私もう帰るね!」
スタジオに向かう途中歩いていると、前にいた女子高生が、いきなり高速ターンを決めて俺のもとに突っ込んで来た!
「っぶね!」
間一髪のところでかわすと、その女子高生はこれまた素晴らしい速度で二、三度ペコペコ頭を下げると、駅の方へと走り出した。
文句を言う暇もない早業だった。
せめて彼女と話していた相手のヤツを見て、親とかだったら文句の一つでも言ってやろうと思った。
が、相手を見てやめた。 その相手が、Yシャツにスラックスのリーマン風の人物で、どうも関係性が全く見えなかったからだ。
まあどうせ、親族でも恋人でもない、女子高生とリーマンの関係なんてろくなもんじゃないだろう。 多分パパ活サイトだか何だかで知り合ってリーマンの方が女子高生に売春を持ちかけたとか、そんなもんだろう。女子高生の方のあの逃げっぷりは、それくらいの事があったであろうことを示している。まあ別に好きにしてくれて構わない。俺には関係のない話だ。
スマホを見ると17時20分だった。 スタジオは18時からだからまだ時間がある。 少し空腹を感じた俺はハンバーガーショップに入った。 世界最大手のあのハンバーガーショップだ。 一時期その値段のあまりの安さに、ミミズが食材として使われているという噂があったが、実際にはミミズは高級食材なので牛肉よりもよっぽどコストがかかってしまうらしい。したがって噂は全くのデマなのだという。
「いらっしゃいませ!こちらでお召し上がりですか?」
俺はナントカセットを注文し(注文して待っている間に名前を忘れた)、受け取ってから喫煙スペースのある二階へと上がった。
背中のレスポールがやたら重く感じる。こいつは俺が初めて買ったギターだ。 高2の秋に買ったから、もうすぐ7年くらいの付き合いになるか……
それまでは家にあったアコギを弾いていたのだが、高2の夏休みバイトした金で6万円出して買った。
まあギブソン以外はレスポールじゃねえ!って言う人もいるだろうし、何本もギターを持っていて使い分けているギタリストも多い。
しかし、ギターなんて別になんだって良いと思っている俺には、最初に買ったコイツで充分だ。
ハンバーガーを食べ終え、ポテトをつまみながら外の景色を眺めているとなぜか先程の女子高生のことが思い出された。
嘘だ。
正確に言えば、さっきの女子高生をきっかけに昔好きだった女の子のことを思い出していた。
さっきの女子高生とその女の子はどこか雰囲気が似ていた。黒髪のショートカット、気の強そうな眼差し、細身だがバネのありそうな体つきと身のこなし……多分さっきの女子高生もバスケ部だ。バッグの下げ方、ジャージのまくり方なんかでなんとなく分かる。
だって俺はいつも彼女のことを眺めていたのだから。
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