2 前田由香 8月1日 17時00分

「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 わたしは自らの低い地声を1オクターブ上げて、声を張り上げる。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 わたしの声に続いて他の何人かのメイドが、ドアから入ってきた見るからにオタクっぽい青年(年齢的には青年なのだろうが……青さ、爽やかさみたいな要素が全く感じられない彼を青年と呼ぶのは少し躊躇ためらわれた)に声を掛けた。

 そう、ここはメイドカフェで、わたしはメイド。この店は『メイド IN AKIBA』といって、アキバの中でも割と古くからあるメイドカフェらしい。


「最近は戦国メイドカフェだとか執事喫茶だとか、色んなわけの分かんない属性がやたら付いたのが増えすぎて困っちゃうよ~、ウチみたいな正統派なメイドカフェとは一緒にして欲しくないね~」


 とわたしを面接した時に店長が教えてくれた。


(正統派なメイドカフェ?何言ってんだろう、この若オッサンは?)


 正直言ってわたしは笑いを噛み殺すのに必死だったが、なんとか神妙にうなずいてみせたものだ。


 そんな面接を経てこの店で働きだしてから、もう1年を少し過ぎた。

 出勤初日に「面接であんまりうまく受け答え出来なくて、多分無愛想な印象を与えてしまったので、受かるとは思っていなかった」という旨のこと先輩メイドに話したら、面接の内容なんかどうでも良くって、単にルックスが店長の好みだったから受かったんだよ(笑)、と言われた。

 その話を聞いた瞬間、店長のヘタクソな笑顔がとても嫌なものに思えてきて、お金貯まったらソッコーで辞めよう!と心に誓った。


 あれから1年以上が過ぎたのにわたしはまだこの仕事を続けている。

 理由は……色々だ。



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