第52話 母親

 お父さんが元バスケ選手と知ってしまったからには、話し合いをしないといけないような感じだ。


「お父さんって元バスケ選手?」


 居間でくつろぎながら、自然と聞いてみると飲んでいたお茶をお父さんが、豪快にぶちまける。


「なんで、わかったんだ?」


 お父さんに言われて部活の顧問に話したら態度が凄いことになったからわかった、と打ち明けた。


「そんな理由でバレたのかー。隠し通せると思ってたのに」


 そう言いながらに入って行っているお父さんに付いて来なさい、と言って案内されたのでお父さんの後を追いかけた。

 使われていない倉庫部屋と聞いていたから、一度も足を踏み入れたことない。


 部屋に入ると無数のトロフィーが棚に飾っていて、相当強い選手だったと言うのがわかった。


「強制したくなかったんだよ」


 お父さんは、いつも優しい。

 負担になると、わかっていたから、あえて無理強いしなかったんだろう。


「お兄ちゃんも知らなかったんだ?」


「うん、そうだよ」


 多分、兄貴の時もこんな感じだったんだろうな。


「でもまさかバスケ選手になりたいと言われるとは思わなかったから嬉しいよ」


 トロフィーを遠い目で見ながら言う。


「これは、お母さんとも話し合ったことだから」


「なんでお母さんが話に出てくるの? 離婚したんでしょ」


 唐突に出される顔も、うろ覚え見えな母親の話をお父さんが話し出す。


「実は、病気で亡くなったんだよ」


「そうだったんだ……」


 確かに、こんなに良いお父さんが離婚するとは考えにくかったと思ってた時期もあった。


「約束で子供には、好きなことをのびのびさせるようにしようって決めてたから」


 自分が、一歳の時に病気になったのだから顔すらあんまり覚えていないのも頷ける。

 聞いたら結花を妊娠中に肝臓の病気になってしまったのが原因で結花を産んで病院で息を引き取ったとのこと。


 小さい時に話すのは、荷が重いと思ったので今まで話せずにいたみたい。

 今日だけで色んな情報が入りすぎてキャパオーバーになりそう……。


 休みの日に墓参りに行くことにした。

 お父さんと兄貴を含めた三人で行って結花には、まだ伝えていないから一人で家にお留守番させている。

 自分の手には、供える花を持って千葉と書いてある墓石の前に立つ。


「ここにお母さんがいるんだ」


「そうだよ。よし、お掃除しようかな」


 手には、バケツの他に新品な雑巾などを用意していてお父さんが墓石を掃除し始める。


「わたしが、掃除するよ!」


「いやいや! お父さんは、お母さんが大好きだから、唯一の役目である掃除は譲れないよー」


 お母さんのこと愛していたんだな、と感じてこの両親から産まれることができて幸せだと感じた。


 それから自分も雑巾を持って掃除しているお父さんに割り込んで二人で掃除をする。

 兄貴は、掃除が終わってからの線香やお供え物、花を彩るように置いていた。


 家に帰ってから何かを忘れているような錯覚に陥るけど頭の隅に置く。

 後日、部活の顧問を見て忘れていたことを思い出してお父さんに言ってサインをしたのを先生にあげたのだった。

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