第13話 負けられない戦い

そう、泥棒チームにいるあの人とは、兄貴のことだ。

まさか兄貴が泥棒チームにいたのか……。


絶対に面倒くさい。昔は、一緒にお父さんと運動させられてたけど、負けず嫌いだった印象が残ってる。


一人暮らしの今でも運動は──多分していないだろう。

それにしてもここまで生き残ってるのが不思議だ。


急激に人数が少なくなったので泥棒チームにハンデを与えろと生徒達が抗議をしている。


可哀想なので泥棒チームに残っている人数と警察チームを同じ数にしてゲームを続行することになった。


ハンデを与えるほどだから結果から見れば、警察チームが優勢をしているのが明らかだから文句を言ってる人もいそうだな。


そう思っていたが、牢屋のところは何故か、生中継でスポーツ観戦をしているみたいに盛り上がってる。


あれ? なんでこんな盛り上がっているんだろう?


気になって牢屋にところ行く。


「昼食の料理、一品を賭ける! 千葉先生、勝ってくれー!」


「警察も中々の駿足揃いが多いし、そっち賭けるわ!」


何で…………。牢屋が、いつの間にかギャンブルをする場所になっている!?

それに先生も乗り気になって賭けているから余計に収集つかないと思う。


にしても誰だろ? こんなことを始めた人。


「警察か泥棒、どっちに賭けるか選んで下さい。賭けるものは、食べ物しか受け付けません」


必死に声がけをしているので誰がしているのか気になって、声のする方に出向く。

声がけをしている人に見覚えがある顔が見えたと思ったらまさかの澪ちゃんだった。

えっ、まさかの澪ちゃんだったの……。そんなにお腹空いてたんだ。


「澪ちゃんがギャンブルをみんなに提案したの?」


「もちろん」


あー、マジか。本当に高校生だよね? 年齢的にギャンブルっておかしいよ……。


何も見なかったことにしよう。


賭けている人が多いけど警察チームの選出は、まだ決まってない。


誰がするのか分からないけどスポーツ系の部活に入ってる人も何人か警察チームにいるからその人達で事足りるだろう。


話し合いをしているのを遠くで見ていて、先輩達が誰かの名前を呼んでいる。


「怜って名前の子はどこだー」


……えっ?

いやいや、まさかね? 何か名前を呼ばれてるとか勝手に妄想しちゃったのかな。


「怜ー! 探してたんだよー!」


同じクラスで警察チームの子に腕を引っ張られる。


「どうしたの?」


「警察側のチーム選出で怜が出ることになったから探してたの!」


え……。牢屋にいる、みんなと一緒に観戦したかったー!


「ん? でもそこは、先輩達が出るとかじゃないの?」


「何か、一年生の中からも出ることになって多く泥棒を捕まえた功績で怜が推薦されたんだよ!」


マジか。任せられたからには、雫にもカッコイイところを見せないとだ。


先輩達が並んでいるところに向かう。

ほぼ、警察チームに男子ばっかの中で女の子もポツリと何人かいるのも凄い。


女子陸上部の特に足が速い先輩って今さっきクラスの子に教わった。

サッカーとかバスケをしている人なども集まっているらしい。


他の警察チームの出る人が決まった。


元々、十五分間と言う決められた時間でゲームをしていたので残り時間も後、僅かしか残ってないはず。


残り時間が、一分前になったら伝えてくれると先生が言ってたので、それまでに捕まえたい。


複数人で、一人を追い込む行為も禁止だから泥棒を捕まえ次第、警察も一緒に退場するように言われた。


ゲームが再開する合図が出される。


警察チームが誰を選出か、決めるのに時間が少しかかったので、泥棒の人達は、休憩して体力が回復しているだろう。


「来たか。怜。久々の兄妹対決と行こうか」


「絶対に捕まえる。最近、運動とかできる暇もないでしょ」


余計な一言が多いと文句言われた。

運動は、してないと勝手に勘違いしてたが追いかけても追いかけても距離が、一向に縮まない。


結構な持久戦になってるから体力消耗しても、おかしくないのに兄貴は、おかしい。


疲れた様子が一切ないのだ。どっかに追い込もうとしてもそれを掻い潜ってくる。


兄貴だけには、負けたくない。


「残り、一分前です」


他の警察の人は、とっくに泥棒を捕まえている。

残っているのは、兄貴だけ。


自分も体力の限界が来ている。

最後の体力を出して、距離を縮めて捕まえる作戦にするしかない。


「ふう」


一呼吸置いて、最初は、ゆっくり走る。

徐々にスピードを出していき、近づいたところで一気に攻め込む。


「危ないな。捕まるとこだったわ」


綺麗にかわされる。


「ゲーム終了ー!」


──負けた。

勝てると思ったのに。


警察チームとクラスの子達が、こっちに来ている。


「先生が体力ありすぎてゲーム的には、無理ゲーだったけどそれを捕まえようとしたから凄いよ!」


「熱い戦いで、見ているこっちまでハラハラした!」


悔しかったけど先輩とクラスの子達が褒めてくれたし、ゲームも凄く楽しかった。


勝敗が決まったから、みんな昼食を早く食べたいと言って騒ぎながら旅館に行ってる。


皆が昼食に向かう中で、一人だけ旅館とは逆にいる自分のところに向かって来ている人──雫だ。


「お疲れ様。頑張ってたね!」


「ありがとう。お疲れ様。真帆ちゃんと澪ちゃんは、先に旅館行ったの?」


うんと頷く。雫が何か言いたそうな顔で見ている。


「どうしたの?」


「えっとね……。そのー、ちょっと屈んでくれる?」


訳も分からずに屈んで雫の顔を見る。

屈んだところに雫が自分の耳に手を当てて小さい声で言う。


「カッコよかったよ」


くっ……。か、可愛すぎる……。

あまりの可愛さに額に手を当てて溜め息が出そうだ。


旅館に戻る際に、二人で顔を赤くした状態で行くことになった。

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