第5話 不意な出来事

 帰る準備をしている雫に声をかける。


「雫、一緒に帰らない? また男に絡まれたら大変だからね!」


「え! いいの? また迷惑かけちゃうかも」


 全然大丈夫だよと凄い速さで頷いてしまう。


 二人横並びで、学校から道路の歩道に出る。


「そういえば、雫の家ってどこにあるの?」


「家から学校まで徒歩二十分かなー。家の近くに高校あるのは知ってたけど、バイトも大丈夫だとは知らんかったから京蘭高校に入って良かったー!」


 自転車通学とかじゃないのか。歩くの大変そう。


「でも徒歩にしては、かかるね? バスとか使わないの?」


 雫の方を見ると、言いづらいことだからか苦笑いだけが帰ってくる。


「あっ、ごめんね! 変な質問しちゃって。今さっきの質問は、なかったことにして!」


 慌てて、口にする。


「ごめん。気を使わせちゃったね……。京蘭高校に入った理由は、学費が安くて家の近くにあったからなの。だけど通学が、バスだと最寄りのバス停と家の距離が離れてるし、金額も高くなるから徒歩にしてるんだ」


 大変そうだな。負担を減らせれるように、手助けしてあげたい。

 自転車とか使わなくなったのがあるし、それがあれば雫も毎日遠い距離歩かないていいかも。


「私の家に使わなくなった自転車あるんだけど雫いる?」


「え! 人から物を貰うとか悪いし貰えないよ! それにバイトをして、必要になったら自分のお金で買いたいから!」


 頑固だなー。でも雫のそういう性格も好き。

 …………ん? す、好き?

 あれっ、自分もしかして雫のことを好きなの?

 人を好きになることがなかったから、わからなかったけど、こんな感じかな。


「怜、どうしたの? 上の空だったけど、何か考え事?」


 気づかない内に、雫との歩幅が離れていて心配される。


「大丈夫だよ! 雫ってバイトしたいの? それなら良いバイト先、知ってるんだけど紹介しよっか?」


「え! ほんと!? 今日の帰りに、バイト募集してるところを探そうとしてたんだよねー!」


 前を歩いていた雫が、嬉しそうに後ろに振り向こうとするけど足を挫いたのか、その衝撃で体がよろめいて今にも倒れそうだ。


 それを見て、咄嗟の勢いで、雫の手と腰の後ろを掴んでしまい体を引き寄せる。

 引き寄せられた衝撃で雫の髪が大きくなびく。

 それと同時に、雫からシャンプーの良い香りが漂う。


 自分の体に雫を抱き抱えている。


 心拍数が、爆発しそう。事故で雫とハグとかするなんて夢を見ている感じ。心拍数が、聞かれそうになるから慌てて雫から離れる。


「危ないから気をつけるんだよ」


 雫の頭を撫でて、何事も無かったかのように平然と歩く。


「──うん、ありがとう」


 雫が顔を俯いたままお礼を言う。さっきから様子がおかしいことに気づいて話しかけた。


「大丈夫?」


 心配になり声をかける。


「大丈夫だよ! ごめん。もう帰るね」


 そう言い残して早歩きで一人で帰っていく雫の姿をただ見つめた。



 結局、気まずいまま別々に帰ってしまって一日が経っている。


 雫のことで頭いっぱいになって、ほぼ寝れていない状態だから、朝もいつも以上に早い時間に目が覚めてしまう。


 時計を見ると六時半……。早すぎるー! もっと寝たかった! 


 でも女の子って朝は、色々準備で忙しいって聞くから早起きしないといけないって聞いたことあるなーと思いながら歯磨きする。


 自分は、そんなに時間かからないから……。わからない。

 携帯ゲームをちょっとしてテレビ見て、学校に出るのは、八時十五分がいいかな。


 普通の登校よりも早めに来るようにって、プリントに書いてたけど基本十分前行動が当たり前みたいだし、準備終わったら携帯にアラームを設定してゲームしよう。


 一通りの準備が終わって、呑気にそんなことを考えてると後ろから声が聞こえた。


「怜、珍しく早起きじゃないか」


 こちらにゆっくり近づいてくる人物。


 家で、三人暮らしをしている父だ。妹もいるけど、多分ベッドで寝てると思う。

 母とは、離婚したと話を聞いてるけど原因は、聞いてない。

 先生である兄貴は、一人暮らしだ。彼女ができた話とか一切しないし、まず、女性と出会いがあるのかも謎だ。


「あれ? お父さん、仕事はー?」


「ん? まだ時間に余裕あるからゆっくりしてるんだよ」


 ゆっくりねー? そう言うが父の手には、ダンベルを持って受け答えしながら運動してる。


「全然、ゆっくりしてないじゃん……。てか運動するなら専用の部屋あるんだからそっちでしてー」


「いやー。朝から、一人で運動するの寂しいから、いつもこっちでテレビ見ながらしてるんだよ」


 確かに毎朝、一人でお父さんが運動してるのを想像すると虚しいかも。


「怜も起きてて暇だし、一緒に運動しようよ」


「え。やだ。今日、あんまり寝れてないからパスする」


 少し残念そうな表情するお父さんに、また暇な時に運動に参加するからと伝えて家を出た。


 あのまま、家にいたらまた運動に誘われると思ったから逃げたけど、まだ家を出るにはやはり早かったな。


 雫と連絡先交換もしてないので一緒に登校できない。今日の朝は、一人寂しく登校した。


 上手い具合に連絡先を聞き出そうとしたのに何か失敗したかな……。昨日は、結構、楽しく話してたから良い雰囲気だったと思ってたけど思い違いだったか?


 もしや自分、何かやからした!?


 本当は、もっと一緒に帰りたかった。

 だけど雫が足早に帰って行ったとき、怖くて話しかけることもできないままだった。

 話しかけて、もし拒絶されたら立ち直れないし席が隣だから余計に気まずい。

 ──どうしよう。


 今日から、合宿だし雫と早めに仲直りして楽しく合宿過ごす! よしっ。

 目標が決まったから、さっそく早めに学校に行って、雫に話しかけるチャンスをみつよう!

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