第2話
緋ノ院の伝統に、『部名制度』と呼ばれるものがある。
入部と同時に部名―いわば緋ノ院演劇部生としての芸名を決めるもの。
そして、その制度の繁栄を後押ししているのが世襲制。
誉れな役職に就くと、その職に代々受け継がれる名字に部名が変わる。
その中でもひときわ部員の憧れになるのが、大会の主演を務めた者のみが許される姓:
この二文字の知名度は抜群で、業界で活躍するあの舞台女優も、あの声優も、緋宮の名を冠して活躍をしている。それを知って憧れた少年少女が緋ノ院に入学し、羽ばたいていき、そしてその様に憧れ…。
こうやって緋ノ院の伝統は続いてきた。
今日は初めての部活の日、と言っても一度先輩方にはお会いして、部名希望票を提出している。いくつか希望を書いて、今までに同じ部名だった人がいないかなどいくつかの条件を確認して決定するらしい。
そして今日、初めて入部した部員の顔、先輩全員の顔を知り、新入生の部名が発表される。
「65代部長の花園鈴佳です。部長になり姓が花園になる前は、白樺鈴佳といいました。今から皆さんの部名を名簿にして渡すので、お互い仲良くなってね」
部長に継がれる花園を冠して、鈴佳先輩は少し照れくさそうに微笑んだ。顎先で切り揃えたボブがなんとも可愛らしい。
隣から紙が伏せられてまわってきた。
1枚、恐れながら手に取ってまた隣へ渡す。
私の右に座っていた子と目が合い、私ははっとした。
「それでは、一斉にめくりましょうか。」
せーの、鈴佳先輩の声と同時に私は紙を表に返す。
自分の名前を探す刹那が、永遠に感じた。
今日から私の名前は、小倉なの香。
少なくとも二年間はこの名前で舞台人として生きていく。
人生が大きく動いた音がした。
朝緋さす舞台の上で 野宮ゆかり @1_yoshino
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