朝緋さす舞台の上で

野宮ゆかり

第1話

春風が、うっすらと潮の香りを運んできた。

整然と並ぶ銀杏並木に見守られ、港町横浜の景色に溶ける。

屈指の大都会でありながら、広々として、ゆとりのある街。

重厚感のある石造りの建物がどこまでも並んでいる。

濃紺のセーラーワンピを身に纏い、ショーウィンドウに映る自分の姿を歩きながら流し見ると、その奥にいかにもな鞄が塵一つ被らず佇んでいた。ここだけは開国当初から時が動いていないような気がした。


新調した革靴のローヒールが奏でるリズムが、突如として止まった。

ここが、緋ノ院。

私はぐっと唇を結び、そこにそびえる煉瓦造りの校舎を見上げた。

今日から私は憧れの緋ノ院演劇部生になれる。そう思うと、つい口元が緩んでしまって慌てて自分の頬を抑える。

緋ノ院高校演劇部。

横浜に堂々君臨する全国屈指の名門校は、この世界にいれば知らない人はいない。

どんな人たちがいるんだろう。どんな場所なのだろう。

許す限り通い詰めた学校見学では分からないことがまだまだある。

ぎゅっと通学鞄を持つ手をもう一度握りしめ、私は歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る