第31話 ワンコの逆襲

可愛いワンコだったはずのユア様は、急に目をぎらつかせた狼の様にスモーキーグレーの瞳を光らせて僕の肩をぐっと掴むと僕の頬に思いの外優しく口づけた。


目をぎゅっとつぶって覚悟?を決めていた僕は、その事に気が緩んでユア様を見上げた。


ユア様はニコリと色っぽく微笑んで僕と目を合わせてからゆっくりと僕の唇に覆い被さってきた。


僕より熱いくらいのその唇はゆっくりと重なるとグッと押しつけてきて、そうかと思うと僕の下唇をユア様の唇で軽く挟んでふにふにしたり。


ユア様が僕から離れた時には、僕はうっとりと目を閉じていた。


何なら物足りないくらいで、僕はゆっくり目を開けると赤らんだユア様の潤んだ目を見ながら無意識に言葉をこぼれ落としていた。



「…もっと。もっと口づけて、ユアさま…。」



ユア様はグッと息を呑むと「…そうゆうところですよ。リオン様。」と小さな掠れた声で呟いたかと思うと今度は強く唇を押し付けたと思ったら、僕の唇を柔やわと何度も吸ってきた。


僕はふわふわと気持ちが良くなって、思わずユア様の柔らかい唇にゆっくりと舌をはわした。



飛び跳ねる様にビクついたユア様は、急に身を離して、それこそ口をポカンと開けて信じられないものを見る様に僕の口元を凝視したまま固まってしまった。



「…ユア様?」



我にかえってやっちゃった感がじわじわ出てきた僕は、熱さが耳元まで上がってくるのを感じながら首を傾げてユア様に呼びかけた。



ユア様はまた息を詰めてビクッと震えた後、モゴモゴと何か早口で言った。


それから急に立ち上がってお屋敷の方へ転がる様に走って行ってしまった。



走り去って行くユア様を慌てて追いかける従者と護衛騎士をぽかんと見送っていた僕は、いつの間にかすぐ側にセブが佇んでいるのに気づいた。


「いかがいたしましたか?ユア様は…。」


「う、うん。何だか分からないけどユア様が可愛いからチュってしたら、飛び上がって走って行っちゃったんだ。」


セブは僕をジト目で見るとため息をついてお屋敷の方へと僕を促した。



結局、ユア様は体調不良という事で会えないまま僕はタクシーム侯爵家を後にしたんだけど、帰り際に侯爵夫人は楽しそうにコロコロ笑って僕に言ったんだ。


「リオン様、ユアはきっとしばらくは恥ずかしくてリオン様にお会いできないかもしれませんけれど、許してやって下さいね?」




いつもの様に湯舟に一人のんびり浸かりながら、僕はユア様にキスされた事を思い返していた。


僕はずっと可愛い弟分としてワンコのユア様を可愛がってきたけど、時々僕の大好きな猛々しさのあるお兄様みたいにカッコ良くなるなぁと。


そしてユア様が狼みたいだって女の子達に言われてるのがあながち間違ってないんだと納得した。




そして湯舟の中に漂う僕の小さなピンクのソレを眺めながらふと思った。そういえば、ユア様はもう夢精したのかな?


今度会った時にこっそり聞いてみようって。



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