お墓参り

、低いフェンスで囲まれていて、少し中の様子が視界に入ってくる。そこに、はっきりと確認できる1つの墓があった。そこには、いつも目新しい花が飾られている。

 バラやひまわりなど、お墓にそぐわない花が飾られてることもある。それも毎日、違う花が供えられていて、誰かが、毎日、このお墓に来ているようだった。

 誰かの死を直接、悲しんだことのない千佳からすると、毎日、お墓に花を手向ける人の気持ちが分からなかった。

 幼稚園の年長になったとき、お母さんのおじいちゃんが亡くなって、お母さんに手を繋がれて、お葬式に行ったことがあったが、それ以外は、お葬式に行ったことはなかった。

 どうでもいいはずなのに、お墓に飾られた花が気になってしまう。花粉や香り強い花、更にバラのような花は、お墓にそぐわないとされている。

 キクなども手向けられているのを見たことがあるので、供えている人は、きっと禁止されている花をあえて飾っているようにも見えて、また、お墓が気になってしまう。

「どうしたの?」

「ああ、真理。おはよう。」

同じ高校に通う垣内真理が、千佳の顔を覗いてきた。

「あれ、お墓の花が気になるのよ」

お墓の方を指した。

「ああ、あれね。私のお母さんの高校の先生が眠っているんだって」

「へー、そうなんだ」

真理が歩き出したので、千佳もそれに従った。

「その先生の旦那さんと、お母さんの同級生が何人かが、順番に花を供えてるんだって」

「えっ、1人じゃなかったんだ」

「あたり前でしょう。」

 いや、言われないと分からないものだけどと思いつつ、話し続ける真理を止める気持ちはなかった。

「お母さん、曰く、懺悔らしいよ」

懺悔・・・。みんな悪いことをしたのだろうか。

「お母さんたちが、高校の時に迷惑をかけてので、そのために供えにって行ってるだって」

「迷惑って何?」

「詳しくは、お母さんも言ってくれないのよね。秘密にしたいんだって。お母さんも、月に2~3回くらい、朝の5時くらいにお墓に出かけてる」

「でもさあ、バラとかひまわりとかも見たことあるよ」

「ああ、あれね。『亡くなった先生の旦那さんだと思う』って、お母さんが言ってた。それに、『なんであんな花を手向けるかな』って怒ってる。まあ、直接、文句は言えないみたいだけど。」

「文句言えないって、虫がわいてくるよ。」

「そうだね。旦那さんは、ずっと、愛の告白していたんだって。千佳、やっぱり、よく分かんないよね」

「えっ!何が?」

「人が亡くなった墓に、毎日、お花を供える人の気持ちなんて」

「まあ、まだ高1だし…」

「もうすぐ、お盆だね。死者が目覚めるかもよ」

「なんで、そんな怖い話にするの!」

真理は、空を見上げて、「知りたいようで、知りたくないよね」とつぶやいた。

「大切な人が亡くなった時の気持ちってこと?」

「うん」 

 まあ、大切な人と永遠に会えなくなるのは嫌かもな。それの気持ちを理解したいようで、したくはない経験なのかもしれない。

 墓地は嫌な気持ちにさせられる。たぶん、永遠に会えない人が眠っているという現実を思い知らされるからかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小説まとめ:心闇 一色 サラ @Saku89make

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る