瓦礫の下で何を思う

お腹が空いた。苦しい。もう、死んでしまうのだろうか。あれからどのくらいの時間がたったのだろう。家に大量の砂の塊が流れてきて、埋もれてしまった。もう、ここから出ることはできないのかもしれない。もう目を開けることもできない。口の中は砂にまみれて、苦しい。微かに、木の破片で口元に小さな空洞があって、かろうじて、息をしてきたが、もう無理に近くなってきた。もうこのまま、生きていた人生が終わりを告げるのかもしれいない。

 史郎は、生き延びてくれたかな。何年、一緒に過ごすことができなのだろう。三咲と散歩に出かけてくれて、本当によかった。ちゃんと、助かっていることをただ祈っている。史郎に出会えて、本当に良かった。3年前に夫の達郎を失って、失意だったときに、妹の三咲が、「可愛がってね」と柴犬の史郎を連れてきて来たときは、ちゃんと育てられるか心配だった。

 私たち夫婦には1人息子の斗真がいたが、10年前に、何も告げることもなく家を出て行った。それから、1度も家に帰ってくることはなかった。

 誰かを育てることに、自分は不向きなんだと、落ち込んでしまった時期もあった。  そんな時、夫の達郎は、お前の育て方が悪かったじゃないかと言われるたびに、どうすればよかったんだろうと考えていた。斗真は今年35歳になるのだろう。どこで何をしているのだろうか。心配をしても、会えるわけもなかった。

 そいえば、いつも何かあっても、三咲は「お姉ちゃんは立派だよ」と言われるたびに、ありがたい気持ちと、情けない気持ちが混合していた。

 ここ最近、買い物をして、家に帰ってくると、史郎がしっぽを振って、私のところに来るたび、嬉しかった。誰かに必要とされていることが、こんなにもありがいのだと実感することができた。 もう一度、史郎に会いたかったな。


「大丈夫ですか」

誰かの声が聞こえてくる。ただ何も答えらることができなかった。ああ、助かったんだ。

 微かに、光が見えて、誰かに抱えられて運んでいくのが分かった。そこに、犬の鳴き声が聞こえてくる。

「史郎、危ないいから」

ああ、三咲の声だ。無事だったんだ。そう思うと、力が抜けていく。


病院のベットに横になっているのだろう。意識が朦朧としているが、呼吸器をつけられて息ができているのを感じる。

「生きていたんだ」

「何てこと言うの。親に対して」

「こんな最悪なババア、死ねばいいのに」

誰の事だろう。そんな災厄な人いるんだ。冴えない頭に、2人の会話が響く。

「斗真」

 息をのんだ。その名前を聞くまでは他人事だったに、最悪な会話を聞いている。

「もういい、帰りたいんだけど」

「10年ぶりに会ったのに、そんなこと言ったら、可哀そうでしょう」

10年ぶりの息子の声が、分からなかった。

「もう、さあ、連絡してこないでよ。三咲おばさん」

「だって…」

「この人と関わりたくないんだよ。それに、この人がいるって連絡じゃなかったよね」

「だって、お姉ちゃんのこと言うと、斗真、来ないじゃない」

「当り前でしょう。もういい加減にしてよ」

「待って」

2人の声が遠くなっていく。聞きたくない会話だった。斗真に失望を感じる。私ことなど、心配していなかったことに、辛さしか与えない。

意識がさらに朦朧としてきた。呼吸器の音が鳴る。息が苦しい。もう無理か。

 

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