山から逃げる

サタリは山の中腹をひたすら下っていた。親たちが追いかけてこないか心配で、後ろを振りながら、肩で息をしながら、下へと降りていく。

目の前には、木ばかりで、まったく前に進んでいる気がしない。足の裏が痛いが、気にしてはいられない。どこに向かっているかさえ、分からないが、ひたすら、下へと降りていく。

サタリは心の中で「お兄ちゃん」と叫ぶ。3つ上の兄のキマを置いて、逃げてきたことを後悔してしまう。



「何を言い出すんだ?!」

庭にいたサタリはお父さんの驚きを隠せない声が聞こえてきて、家の外の窓から部屋の中をチラッと見た。そこには、キマとお父さんの姿があった。窓の横の壁に隠れて、サタリは様子を伺った。

「お願いだから、行かしてほしい」

キマの恐怖を感じているような震える声が聞こえてくる。

ガチャと誰かが、部屋に入って来て、「お前は悪魔に取りつかれている」とお母さんの声が聞こえてくる。

「うぅぅ」と息の詰まった声がする。バレないように、部屋の中を見ると、お母さんがキマの背後から紐で首を絞めている。

 それを見て、サタリは体が勝手に動いた、無意識の中、ひたすら山の中を走っていた。目から大粒の涙がでて、視界がおかしくなりそうだ。サタリの中になる失望と虚しさが体中を襲てくる感触がある。

 キマから「山の下に行けば、多くの人が暮らしいている。俺はそこで暮らしたい」とサタリと2人の時に言っていたことを思い出す。サタリは生まれて、14年間、山で暮らしていた。両親とキマ以外に人間はいないと思っていた。だから、サタリも知らない誰かに会ってみたくなってきた。


 「サタリ!!」と怒鳴る声が、少し遠いところから聞こえてきた。お父さんだ。追いつかれないようにひたすら逃げるが、サタリの名前を呼ぶ声が、だんだん大きくなってくる。

「いい加減にしろ」とすごい勢いで頭を殴られた。その場に倒れこむ。

「山は下ってはいけないんだ。俺たちがあいつらを殺したことを隠さないといけんないんだ…」と怒りに震える声でお父さんが言って、サタリの首が締まり始める。「やめて」と体をのけるように、対抗しようとするも、無駄だった。だんだん、意識が遠のいて体が全く動かない。薄く開いて目には、笑っているお父さんがいた。

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