お悩みのサイト掲示板を、傍観してみた。

★親族が亡くなって…

立花たちばな佳純かすみは、精神的にも肉体的に疲れを感じた。ここ3日ほど、せわしなく過ぎて行った。大好きだった父の葬儀はすべて終わってしまった。

 深夜の静まり返った部屋で、じっと慰霊碑の父の写真を見つめる。もう、優しく微笑んでくれることもない。47歳で独身、子供もいなかった。孫の顔を見せてあげることもできなかった。5年前、母が亡くなって父は寂しそうかったと思う。母と天国で会って、仲良く暮らしてほしい。


畳に寝転がり、手首で目を覆う。火葬場で父の肉体が煙突から灰色の煙が天へと昇っていく光景が蘇ってくる。どこからともなく虚しさが湧き上がってきた。父との別れを受け入れらない。熱を帯びた涙が流れ落ちていく。

 ティシュを取ろうと、少し起き上がり、棚に手を伸ばす。すぐそばに置いてあったスマホに手を取って、「寂しい」と検索した。閲覧サイトをスクロースする。『誰にも言えない悩み』というお悩み相談サイトを見つけた。佳純は、寂しさを誰かと共有してほしくなった。

『母親が亡くなり、3日前に父親がなくなりました。親族は遠縁です。相談する人がいません。元気になる方法を教えてください。』と書いて、投稿をボタンを押した。

 すぐに返事なのは返ってこない。何分も、じっとサイトを眺めるが誰からもコメントを書いてはくれなかった。そのまま、疲れもあって、寝落ちをしてしまった 朝、起きて、最悪な気持ちもあったが、右手にスマホを握っていた。サイトをコメントがあるか確認した。2件のコメントがあった。

「いつもそばにいます。気持ちが落ち込んでいたら、また書いてください。1人じゃないですよ」というコメントが書かれてた。年齢を見ると10代の子どもだった。47歳の佳純からして、子供に身近な人が亡くなって気持ちなど分からないだろうと思ってしまった。

もう1件が「慰めなんていらないですよね。金銭的に余裕があったら、マッサージなど行くと気持ちが落ち着きますよ」何というコメントだろう。人が亡くなって、マッサージ。そんな気持ちになるわけない。それも40代と書かれている。親族が亡くなってもおかしくない人だろう。こんなコメントを書くなんて、どういう神経をしているのだろう。

 佳純は、彼らに何を求めていたのだろう。どこか気持ちが落ち込んでくる。投稿を削除のボタンを押した。

 赤の他人に、気持ちを寄り添ってもらおうとした自分が情けなった。

 

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★感情を模索する…

 

 宙を描くように他人の考えなんて、理解できるものではない。

佳純は仕事が終わって、誰とも会話をせずに帰宅。こんな日々がいつまで続くのだろうか。終わらせたい。終わらせ方が分からない。虚しさと前に進むことへの不安が襲ってくる。

 それでも、どこかで答えを求めてしまう。ソファにすわって、意味もなくスマホをいじる。お悩みの投稿へとたどりついてしまった。どうでもいい内容だ。そんなことで何で悩むのだろう。

『彼女と別れたほうがいいですか』こんなの自分で決めればいいのに、何で他者に判断をゆだねるのだろう。

 『謝ってくれない』学校に相談したらいいのに。結局、他人の悩みなど興味がないのだろう。

 同じような悩みをもう人を探してもいるわけもない。ここじゃなくてもよくないかとう内容がズラズラと書かれている。どこかに、寄り添える場所を探すように、人は悩みを聞いている。


『喜怒哀楽をもち、多彩な表情でそれを表現する。人と関わることで成長し、自分について考える。未来に希望を持って、過去を憂いて、今を精一杯生きる。

誰かを愛し、誰かに愛される。(原文まま)」

読んだところで理解できない。人はこれを心の叫びだというのだろう。助けてほしいのはこっちだと逆ギレ気味になってしまう。

 ビールを開けて、夜空をみると多くのビルの光が映っている。 


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★働きたくないことに、言い訳を…


 会社から帰ってきて、いつものようにぼっーとソファに座る。いつまで、こんなサイトを見るのだろうと佳純は思っているが、スマホでお悩みサイトを開いている。無意識な行動に、たぶん自分の中で何か気になってしかたがないのだろう。自分と同じ悩みが投稿されないかと期待するも、親を亡くして孤独な人間など、居るわけもなかった。

『学生時代にいじめで人嫌い。初就職先ではパワハラで職場恐怖症、余裕がない正社員が嫌になりました。

派遣もバイトもあまり手を付けない職に受けてみた。けど、どれも交通費の無駄だと思ってしまった。

きっと甘えとか言われるんだろうけど、口だけで見下すばかりの人に説得力はない。

どうしたらいいのかと早1年。寝るも食べるも働くもわからなくなってきた。

きっと身内でないだれかに、言葉を拾ってほしいのだと思います。(原文まま。)』

 世間に甘えて、自分に甘える。それでは何も変わらない。変わらないことは分かっているけど、叫びたい気持ちも分かる。救うとは、誰かのためではなく自分のためなのかもしれない。冷蔵庫からビールを取り出して、空を見上げる。いつになったら、この孤独から解放されるのだろう。


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★家族の事情‥‥


大音量の音が、隣の部屋に聴こえてくる。もういい加減にしてほしい。大学受験を控えた静香はヘットフォンとして、勉強に集中しようとした。それでも、音は耳に届いてくる。日曜日で、今かコロナ時期で図書館は閉館している。カフェなど、少し雑音のある所では集中できない。また学生でお金もなくて、家しか勉強する場所が見つからない。大学に合格したら、すぐにでも、こんな家を出て行きたい。


静香は部屋を出て、リビングいる母親の元に行った。

「辰巳にボリューム下げるか、ヘットフォンしてくれないか言ってくれない」

弟の中学2年生になる辰巳に直接は言いたくない。何を言いても「消えろー、うるさい」と叫ばれて、面と向かって言うつもりない。

「無駄よ。言うこと聞いてくれないんだから。我慢して」

受験生の静香より、辰巳のことを優先されて、不快な気持ちが増してくる。

「なんで、言いてくれないの!!」

受験勉強に集中したいのに、精神的に追い詰められている静香は叫ぶ。

「ごめん、ママも限界なの」

限界って、こっちが限界なのに。だったら、何とかしてしてほしい。何もしないくせに、文句ばっかり言っている母親に反吐がでそうだ。

そのまま自室に戻った。とりあえず、今は家に居たくない。荷物をまとめて、家を出ることにした。少しの時間でもマスクをするのも嫌なのに、気分が滅入ってくる。

 外に出て、近くにあるファーストフード店に向かった。飲み物だけ買った勉強するしかない。

1人席に座って、ひたすら勉強に集中しようとするも、意識が散漫になって、全く勉強できない。

 スマホを開いて、気晴らしに検索をする。悩み相談のサイトを見つけた。

『弟が嫌いで、家を出たいです。私は受験生で、勉強に集中できません。中学2年になる弟が、精神的に嫌いでしょうがなく殺意も覚えてしまいます。弟には発達障害の傾向があり、受診はしていません。音楽以外に興味がなく、注意力が散漫で、夜は歌ったりギターを弾いたりしています。なので、勉強に集中できません。両親も注意をしてくれてますが、言うことを聞きません。なので、今すぐ家を出たいです。ホテルで生活をして、受験勉強に集中しようと思ったのですが、金銭的にも余裕がありません。どうしたらいいですか?』と書いて投稿した。

 何日しても誰かの返答があるわけではなかった。ただ、書いたことにスッキリはしまった。友達に相談したら、あるシェアハウスを紹介してもらえて、そこで受験勉強をして生活をすることができることになった。母は反対したが、父が了承してくれた。すこし、弟から離れることができることになって、嬉しくなった。


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★就活…


静香は、親から大学を卒業したら、一旦は家に帰ってきてほしいと言われた。なんで、大学を合格してすぐにそんなことを言い出すのか分からない。

 むしゃくしゃする。あのお悩みサイトがどうなっているのかが気になって、サイトを開いてみた。丁度、『就職』というタイトルの投稿があった。

『今、就職活動と家庭環境について悩んでいます。わたしが通っているのは音楽大学で、就職する人はほとんどいません。父と母の両方が就職未経験です。就職の準備の仕方がまったくわからず、大学3年の2月くらいからは、何かしら初めなきゃいけない、でもなにをしたらいいのだろう、と悶々と月日だけが経っていきました。

就活を始めたのは、7月頃でした。最初のほうは一次面接すら通過できず、ボロボロでした。今では、最終選考にまで進めるようになりました。

 面接に慣れたことは良いことなのですが、就活を始めた時期が遅すぎて、持ち駒がもうないです。

今選考中の企業がダメだったら、都内の楽器屋さんでアルバイトから正社員になろうかなと思ってます。

わたしは、本当に能力がない人間です。周りが普通にできることができないことが多々あります。実際、発達障害のグレーゾーンと言われています。わたしの就職活動がうまくいかないと、家庭環境も悪くなってしまいます。

 この間、最終選考に落ちてしまったのですが、そのときも父に、「もっと必死になれ、努力が足りないんだよ。」と言われたり、(結果が出る前は、頑張ってるね、と言ってくれていました。)母も、最終選考が落ちたことによって、機嫌が悪くなり、口をきいてくれなくなってしまいました。話ても、イライラしていてもうどうしようもないです。

 励ましのお言葉など、もらえたらうれしいです。甘えるな、などの言葉は控えていただきたいです。(原文のまま、途中抜粋)』

 何だろう、こう虚しさは。読むんじゃなかった。就活を初めて、1カ月くらいで最終面接に行っていることは凄いとは思った。ただ、投稿者のプライドが高そうで、言い訳じみた文章に嫌気がさしてくる。それに、親が就職していないというのも謎すぎる。家賃収入のある家庭かもしれないが、恵まれた環境の人を見ると腹立ってくる。

 甘えるという言葉は意図的に違うかもしれないが、どこか贅沢な悩みに思えました。励ます部分もない。投稿者が普段から甘えるなと周囲から言われているのかもしれない。

 静香は読んだことを後悔した。どことなく、苛立ちが増してしまった気がする。静香は大学を卒業後、家にはやっぱり帰らず、就職したい気持ちが大きくなった。


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