逃げた心

 今年の4月に高校生2年になった清水直美は6月になっても学校に行かずにいた。慣れていない身体を動かし、もうすぐ、スーパーに着きそうだった。上下を黒に身を包み、人の目を避けるように、俯いて歩いていく。ただ、スポーツドリンクを買いに行くだけだったのに、息が上がる。家から10分くらい歩いて、やっとスーパーについた。自動ドアを通ると、店内の独特な音楽が流れ、涼しい風が体内をめぐり、汗を乾かせる。

 野菜コーナーには、野菜たちは色鮮やかに並んでいる。ただ、スポーツドリンクを買えばいいだけなのに、目的の場所までたどり着くことが困難でしょうがない。ベビーカーを押している女性と目が合う。すぐに目を逸らす。12時過ぎのスーパーに高校生がいるなんて、やぱっりおかしいよね。分かっている。でも、家の外に出たかったんだ。言い訳が心を落ち詰める。

 目線の先に多くのお肉が並んでいる。鶏肉、牛肉、豚肉。彼らはいつ命を断たれたのだろう。誰かに食べらることで、人生を全うする。何かのために人生に捧げれるって、やっぱりいいな。

 カゴには、大量のお菓子が入っていて、今にもカゴから溢れだちそうだった。いつの間に、入れてしまったのだろう。お菓子を元の場所に戻す気も起きない。やっと、ドリンクコーナーについてたどり着いて、スポーツドリンクを手にもって、セルフレジを横切って、レジに並ぶ。さすがに昼間でもあって、多くの人が並んでいた。少し待たされて、イライラする。やって自分の番になって、金額が5000円近くなってしまった。スーパー袋抱えて、歩いて帰る。さすがにスポーツドリンクが重たくて、足取りが重い。袋や破れそうだった。重たくて、足取りも重くなっていく。


 誰もいない家の鍵をかけて、中に入って行く。母親は仕事に出かけていていない。父親は出張という名の不倫相手の家にいって3カ月ほど会っていない。 

 自室に入ると、服が散らばって、足の踏み場のない部屋で、1日を過ごす。お菓子を、口に運んで、スポーツドリンクで流し込む。これ以外の食事をしていないので、体重が40キロのままだった。本当に、拒食症並みの体系だ。ただ、吐き戻すという行為がないので、たぶん、私は拒食症ではない。ただの偏食だ。

スマホが鳴る。学校からだ。留守電に変わって切れた。

留守電を聞くと、担任の山田だ。

「学校どうしますか。単位などもあるので、ご連絡をお持ちしております。」

 仕事上の態度だろう。たった1つの行為で行けなくなった。教室で、高音のオナラをしてしまった。それから、行けなくなった。誰からも責められてるわけでもない。ただ、その行為で、どう学校で生活をすればいいのか、分からなくなった。いつまで、逃げるのだろう。


「転校手続きしてきたから、通信制の高校に転校ね」

冷たく頭に響く声で母親はドアの向こうで言った。直美は何も言わなかった。

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