エピソード2

「だから、俺もういいわ!」

「えぇ!? 一回ぐらいの失敗でめげんなよ! だってあれは不可抗力だろ?」

「馬鹿! いくら興味本位だったからって、前回のばばあとは無理だって! あの後どうなったと思ってんだよ!」


 俺、悠平ゆうへいと同級生である淳二じゅんじと数名で、街中にあるアダルトショップ前でウダウダと会話を交わしていた。

 前回、アダルトショップのAV女優のイベントに参加するとAV女優とセックスができると噂を呼び参加した。

 だが結局全く違う罰ゲーム級の仕打ちを受けた俺は、淳二の言葉に疑いを持っていた。


「違うんだって、今回のアダルショップはAVイベントじゃなくてさぁ? 店員のお姉さんなんだよ!」

「ん? どういう意味? ショップ店員がなんだよ!? まさか、やらしてくれるってとか?」

「お前、話早ぇなぁ! そうなんだってば!」

「うっそだろぉ!? どの店員だよ! 可愛いのか? ばばあじゃ、やだかんな!」

「バカ! 全然ちげぇーって……」


 学校帰り、校区街の街中に新設されたアダルトショップ前で、俺たちはウダウダと話をしていた。そこへ白いブラウスから溢れそうなメロンばりの胸を揺らす女性。

 タイトスカートを履いて、細い括れから伸びる長い足を覗かせ歩く、黒髪を結った女性が一人商店街に見えた。

 その女性は、俺たちを見てクスッと笑うと、まさかそのアダルトショップに堂々と入っていった。


 俺は唖然とした。だってだ、あんな綺麗な黒髪の大きな瞳で、結構まぶい大人の色気がある女性が、このアダルトショップに堂々と入ったからだ。


「あの人だよ……。見たろ? どう?」

「どうって……、どうも、こうもうねぇよ! あの人が、何!? やらせてくれんの?」

「だったらどうよ? アハハハッ」

「うぉお! いきテェ! またAV買うのか?」


 俺はそう淳二に言い返すと、淳二は首を横に振り「簡単だ!」と息巻いた。


「何が?」


 淳二は、聞き返した俺の肩を組み、耳元で小さく囁く。


「やりたい……って言うだけ。簡単だろ?」


「えっ……。うそ……マジ!?」


「そそ、ニヒヒッ、すげーだろ?」


 と言うわけで、俺は一人、以前とは違う新店のアダルトショップ店内に入ってみた。


「いらっしゃいませ〜」


 男性の低い声での挨拶されるかと思いきや、その図太さとは違い、明るい女性の声がした。

 一瞬緊張して入り口付近で固まりそうなった。

 こんな男の闇の部分を示す店に、女性の明るい声と笑顔だった。


 男子校通いの童貞くんである俺にとっては、その声は女神様かと思えるほどだった。

 しかし女性が一人、男の盛り場であるこんな店で働くなんて。

 恥ずかしくないのかと思いながらも、入り口付近のアダルトグッズに思わず目をやった。

 すると店員のお姉さんが、まさか洋服屋の店員のように明るく話しかけてくる。


「それ、この夏の新作らしいですよ」


 まさかと思い、思わずレジの方へと目をやった。通常こういう店は、顔が見えないように暖簾のれんがかかっているのかと思ったが、暖簾など無くオープンで顔が見えた。


 黒髪を後ろで結衣、大きな瞳がクリっとこちらに向いた。そしてお姉さんは少しはに噛んだ。


 一瞬ドキッとした。

 こんな場に似つかわしくない清楚な感じなのに……。ベビーフェイスで、胸元ははち切れんばかりのフワリとした膨らみ……。

 思わず見入ってしまうぐらいの大きな胸と、可愛らしい赤いメガネ。その裾から見えるホクロが色気を感じさせた。


 緊張して固まった俺に、お姉さんは更に声をかけた。


「もしかして、君? 高校生?」


 やばいっ……。入って早々バレるとは。俺もベビーフェイスなのかと思いきや、お姉さんは続けて笑みを浮かべ、訪ねてきた。


「違うかなぁ?」

「ちっ違います……」


 バレそうな思いもありながら、端的に否定する俺。淳二に言われた言葉「やらしてよ……」の想いが先走り、思わず喉を鳴らし、お姉さんに尋ねた。


「どうしたの?」

 固まった俺に、お姉さんは馴れ馴れしく聞いてくる。

「いっ、いや……。いきなりなんだけど……」


 俺は意を決したが、言葉に詰まった……。するとお姉さんの方から、まさかの誘い文句……。


「君も、やりたいのかな? フフッ……」


 感情のこもった女性の誘い言葉に、俺は更に緊張感が増し直立不動になる。それもわかった上かお姉さんは前のめりになり、カウンターから半身を出し胸元を強調し乗り出しくる。


「やりたいんでしょ?」


 そんな上手い話があるはずがない。絶対に違う。違うぞ! 世の中そんなに簡単に事が運ぶわけがない! そうだこれは夢だ。悪い夢でも見ているのかと思ったが、お姉さんは更に、腕を出し俺の固まったままの腕を掴んだ。


 そして……。


 柔らかい手が俺の手に触れた。スベスベの柔肌に温もりを感じた。それだけで俺の気持ちと心臓は高鳴った。


 ドキドキ……する。

 毎日勉強していれば、こんなにいいことあるんだ……。童貞の俺だったが、今日がおさらばの時だ! と思わず唾を飲む。


「こっちよ……」


 優しく手を握られてカウンターの上部の板を外し、俺の体を引き寄せて、カウンター裏へと誘って行く。


 やった。やったぞ! これで……、俺の童貞ともおさらばだ!


 お姉さんに優しく手を引かれ、カウンター後ろの扉を開けた。


 そこは店の裏部屋とも言える場所だった。


「おつかれ……」


 そこには俺と似つかわしいぐらいの男二人がいる。二人は必死にアダルトDVDのパッケージにビニル袋を包んでいた。


 えっ……。手作業……?

 いや、違うそこじゃなくて男二人?

 俺は疑問に思う。思わず横に立つにこやかなお姉さんの顔を二度見した。


「どうしたの? やりたいんでしょ? はい、バイトくん確保!」

「えっ……?」

 びっくりした俺をよそに、お姉さんがそう言うと更に裏口の扉が開き、ゴツい男が入って来て言った。


「おっ!? 来たな? 淳士から聞いてるぞ!」

「えっ……何……?」

「時給300円出すぞ! 帰りにはアイス1本もつける! 今日からバイトくんな!」


 ゴツい男は俺の腕を取りお姉さんと引き離した。


「えっ……」


 びっくりしてお姉さんを見ると「私とやりたいんでしょう? 頑張ってね? フフフッ……」


意味深な言葉を言い残し、お姉さんはカウンターへと消えて行った。


 淳二に騙されたと思った。そう言えば、淳二の押し付け方が怪し過ぎたのを今頃思い出した。


「やりたいんだろう!?」


 男の図太い声が小さな部屋にこだましていた……。


「やっぱ、罰ゲームじゃんか! ブラックバイトかよ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

噂のアダルトショップ ーAV買うとおまけで濃厚サービスついてくる!?ー 北条むつき @seiji_mutsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ