残骸二話&望まれ七話読了後推奨

『Time』

 一秒。


 セシウム原子133の基底状態の二つの超微細準位間の遷移によって発する光の振動周期の91億9263万1770倍の時間(広辞苑参照)。



 一秒。


 1分の60分の1。

 1時間の3600分の1。

 1日の86400分の1。

 1年の31536000分の1。

 1生の・・・・・・一生ってどれぐらい? 普通。



 一秒。



「───────驚いたな。君の存在を実証する数値は、微弱な電波とレネゲイド侵蝕率以外には存在しないようだ」


 なるほど。

 わからん。


「あー・・・・・・つまり、君は生物というより現象エフェクトに近い。あえて言うなら・・・・・・幽霊のようなものだ」


 幽霊。

 あの町ではそんなに珍しいものではなかった気がする。天神様の祟りで人がいっぱい死んだ時は、人の数より多かったんじゃないかな。


 でも、自分がそうだとは思わなかった。


「ははっ、終わってるね平安京。生まれるのが千年遅くてよかった・・・・・・いや、逆か。それなら。ところで、」


 医者が着る白い服を着て、今はもう顔も名前もどんなだったか思い出せない男の人が首をひねった。


神性婚礼しんせいこんれいの『神使い』に遺産側の意識は反映されないはずだが、?」



 一秒。


 たぶん、百二十六億千四百四十秒四百年くらい前。

 あの町よりずっと多くの死が辺り一面に転がっていたころ。


 彼女は、生きてる女の子の中に

 そう。

 落ちた。

 ふわふわした雲の上から、突然足がすっぽ抜けて地面に真っ逆さま。たまたまそこにいた女の子と頭をごっつんこ。


 実際、そういう感覚だった。そうなったのだとしか思えなかった。ほんとは、それまで存在すらしてなかったのかもしれないけど。


 とにかく、現在いまはその時の延長線だと思う。第二の生というなら、その一秒間がスタートラインだったと思う。


 とにかく、彼女彼女だった。

 あの町での出来事は覚えてるし、自分がどういうふうに死んだのかもだいたい覚えている。

 こうなる直前の記憶があるとすれば。


「──────わたしに女子供をたせる為に、祖はこの弓雷上動をお遺しになられたとうのか」


 小さな池と。

 筆を執るための手で、やじりに着いた血を流す男の人の横顔ぐらいだ。


 そうだ、彼は泣いていただろうか。

 それとも、はねた彼女の血が頬を伝っただけだったのだろうか。


 そういう細かいところまでは思い出せなかった。あれ? じゃあやっぱり、彼女はその時の彼女本人じゃないのかもしれない。体感的には一秒前の記憶が定かじゃないなんて、どう考えても不自然だ。


 ・・・・・・だけど、そもそも一秒前までの自分と今の自分は本当に全く同じ人物なんだろうか。


 たとえば、風が止んだ時。

 頬に爽やかな涼しさを感じていた時の自分は、どこにもいなくなる。

 過去のものとなる。

 そしていずれ、遠くない未来に、のだろう。

 果たしてそれは、『同じ自分』と言えるのか。


 どう思う? 君は。


「え・・・・・・? わ、わかんないです・・・・・・」



 一秒。



 彼女は、どっかのお城のお姫さまだったらしい。

 たくさんの国がたくさんの城を持って、たくさんの戦いでたくさんの命を消費していた時代だった。ちょうどその頃には一際大きい最後の戦いがあって、それが終わりかけていた時だったと思う。

 彼女が生きていた時代は、お侍たちの間で派閥争いみたいなのはあったけども、こんなに長い間戦争が起き続けていたことなど無かったので、びっくりした。


 でも、それよりびっくりしたのは、彼女彼女の声が聞こえたことだった。


 落ちてきた時、彼女の中に入った時。

 彼女はなんとなく実感していた。今の彼女な、幻みたいなものなのだと。

 だから、普通に話せるとは思わなかった。


「泰平の世からおいでになった貴女の目には、この時代の人々は愚かに映るでしょうか」


 まあ、それは、うん。実際、国なんか誰が統治しても変わらないと思うし、お殿様一人のために何万人って人が殺し合うのは、平民出身の彼女にはちょっと理解できない。


「・・・・・・この戦乱の世に、好んで命を擲つ者がどれほどおりましょうか。

 それでも私たちには、この戦いの果てに、いつしか天下泰平の世が来ると信じて屍を積み上げなければならなかった」


 難しい話。ついでに、難しい顔。

 彼女はどっちも苦手だ。えらい人の苦悩なんてこれっぽっちも共感できない。


 でも、そのいかにも苦々しげな顔は、あの池で鏃の血を流していた彼の顔に、ちょっとだけ似ていた気がする。



 ・・・・・・戦いは嫌い?


「え・・・・・・? っ、武家の娘として、恥ずかしい限りですが・・・・・・はい」


 あー、わかった。おっけ。

 じゃあ、神さまがやるわ・・・・・・代わりに。



 一秒。



 名称︰『神性婚礼』

 種別︰特別指定作戦対象(作戦終了済)

 詳細︰日本国内において、記録上は少なくとも千年前から開催が確認できる儀式。開催ペースは五十年に一度とされており、それが正しければ最低でも二十回はこの儀式が行われていることになる。

 本稿作成に協力してくれた考古学者・東雲しののめ氏、及び傭兵・藤堂とうどう修記郎しゅうきろう氏両名の証言によれば、その本質は『イザナギ』『イザナミ』という日本神話における国造りの神々の名を冠したレネゲイドビーイングの復活を防ぐための儀式である。もし神性婚礼が執り行われず、二柱を解放してしまえば、二柱の持つ『国造りの権能』により、以下のような事象が発生する。


 ①イザナミの権能により効果範囲内(少なくとも日本国内全域)のオーヴァードが無差別に殺害され始める。

 ②同時に、イザナギの権能により効果範囲内(これも同上)にオーヴァードが無尽蔵に生成し続ける。

 ③イザナギのオーヴァード生成能力はイザナミのオーヴァード殺害能力に僅かに勝るため、結果として二柱は数日程度で効果範囲内のレネゲイド生体を一新し、同時に空気中のレネゲイド濃度を人類の生息不能域まで高める。

 ④効果範囲は、時間の経過と共に拡大していくものと考えられる。


 神性婚礼を完遂した儀式参加者は、『神の力』と呼ばれる詳細不明の超能力を獲得し、それを行使することによって二柱のパワーバランスを保つ。イザナミの能力をイザナギの能力と均衡させることにより、二柱の権能は相殺し、封印は保たれる。


 以下、詳細な儀式内容。

 神性婚礼とは、神の名を冠する『遺産レガシー』を有するオーヴァード───────通称『神使いレリックユーザー』と呼ばれる十二人のオーヴァードが、たった一人の『花嫁』を巡って殺し合う争奪戦である。

 神の名を関する十二の遺産は、それぞれオーヴァードの衝動に対応している。選定基準及び判定基準は不明。

 『花嫁』を手にし、その心臓たる遺産『始原の炎プロパテール』を抉り出した『神使い』は、自身の遺産に宿る特殊なレネゲイド──────『神性種』の活性により、所有者本人が神の次元へ足を踏み入れることができるとされる。同時に、その力によって『イザナギ』と『イザナミ』の封印は保たれる。(UGN本部エージェント・加賀美あいの事後報告書より抜粋)


「ぎィ───────ッ、何故だァ!!」


 イザナギ・イザナミが完全封印された最後の神性婚礼から四百年・・・・・・回数にして八回前、通称・慶長けいちょうの神性婚礼。


「何故・・・・・・ッ!?」


 『殺戮』の神使い・ぬえ大明神だいみょうじん


『───────“ごっこ”じゃつまんないでしょ。そういうこと』


 記録によると。

 彼女は当時の神性婚礼において、『飢餓』の神使い・ヴォーロス、『破壊』の神使い・ルドラ、『闘争』の神使い・アレスを相手取り、いずれも単身で撃滅している。


「此度の神性婚礼は、少々展開が早すぎますね」


 ──────────襲いかかってきた、あれす? の神使いらしい侍の血を川の水で流していると、背後から女の声が聞こえた。


「─────────! あの、何方どなたですか・・・・・・?」


「・・・・・・! おや、これは失礼。私は神性婚礼の典儀てんぎ、スズカと申します。以後お見知り置きを」


 黒い宮司姿の女は、彼女をまじまじと見つめる。しばらく眺めるとようやく得心がいったようで、薄ら笑いをうかべたまま呟いた。


「なるほど、神使いと遺産が共生関係にあるようですね。それで戦闘時だけ人格を交代していると・・・・・・どうやら、■■■様には神使いのみならず、器としての適性がお有りだった様子」


 ────────彼女が首を傾げる。どういうことだか、彼女に聞いてくる。彼女にもわからんので、まねっこして首を傾げることになった。


「しかし・・・・・・この神性婚礼において、元より器でありながら神使いと成った方がとは。運命の悪戯と言う他ない」


「二名?」


 ────────スズカはクスリと微笑む。まるで、分の悪かった賭けが存外良い方向に転びだした時のように。彼女彼女を一遍に見つめて。


「神性婚礼は大詰めにあります。

 貴女方がたおした『飢餓』、『破壊』、『闘争』の他に、『吸血』、『加虐』、『妄想』、『自傷』、『恐怖』の五柱が撃破されました。残る参加者は四人・・・・・・未だ花嫁は健在でございます」


 彼女彼女が宿ってから、まだ二日しか経っていない。だと言うのに既に、十二人中八人が脱落している。

 神性婚礼は一定の範囲内で執り行われる。熾烈な混戦になったのであれば、こちらでも気づけたはずだ。


 つまり、参加者の誰かが殺して回っているのだ。他の神使いを、恐るべき速さで。


「・・・・・・飛び抜けた強者が居るようですね。それが『二人目』という訳ですか」


「儀式の公平性を保つため、私の口からはお教えできません。ご想像にお任せ致します」



 ─────────スズカって女の子は、それっきりどっかに消えた。


 正直、ちょっと焦った。

 これまで倒してきた人たちも、結構本気・・・・・・ってか必死でいかないとやばいくらい強かったから。あんなのを連戦で倒して回ってるって、やばすぎ。


「・・・・・・此度の『花嫁』はさる貴人。他の参加者にも手出しができないから、今回の儀式は神使い同士の戦いが頻発しているのでしたよね」


 あー、そう。たぶん。つまり・・・・・・


「その強者は、いずれ私たちも殺しにくる」


 ・・・・・・・・・・・・そういうこと。

 

 やばい。忘れてた。

 そういえば戦えない彼女の代わりに彼女が戦ってるんだから、彼女がびびったら、彼女まで怖がっちゃうんだった。


 でも、強がろうとしても自信が無いのは変わんない。彼女は器? だし隠しても多分伝わってしまうと思う。


 ・・・・・・だからもう、生き残るにはこれしかないわ。


「・・・・・・! 私たちで、『花嫁』を殺す・・・・・・?」


 そうすれば、神性婚礼は終わる。

 命を狙われることもなくなるし、何気に名案だと思う。


「まさか、そんな、討ち入りなど・・・・・・!」


 大丈夫。

 殺すのはいつも通りこっちでやるから。抉ればいいんでしょ? 心臓。


「貴女だとしてもですっ・・・・・・!!」


 ・・・・・・ちょっと、びっくりした。

 彼女、泣いてる。泣いてるのに、なぜか怒ってる。悲しくて泣くんじゃなくて、怖くて泣くんじゃなくて。許せないから泣いてる。

 誰を? 彼女をだ。

 なんで? わからん。


「襲いかかってきた神使いたちを殺めるのとは訳が違います・・・・・・! 戦場に出た以上、彼らは命を落としても文句は言えない・・・・・・ですが、『花嫁』はそうではないでしょう!」


 ・・・・・・それはそうだけど。

 『花嫁』を殺さないと、殺されちゃうよ。

 多分、勝てないから。その強い人には。


「負け戦結構! 私も武家の娘なれば、弱者を殺めて生き延びるより、強者と刃を混じえて誇り高く死ぬる道を選びます!」


 困った。

 こんな考え方なんだ、この時代の武士って。


 彼女には話してないけど、彼女が死ぬと多分彼女も死ぬ。もう彼女たちは一心同体だから。

 まあ、死にたくないわけじゃない。別に第二の生が惜しいわけじゃない。そもそも、第一の生(そんな言葉あるの?)も全然惜しくなかったし。


 でも・・・・・・


 やっぱ死んで欲しくないかも。

 第二の生でやっと、始めて出来た友達だし。


「え・・・・・・? ぁ・・・・・・ッ!!」


 ─────────そこから先は、もう彼女の方が早かった。

 そもそも身体の支配権の切り替えは彼女にやってもらっていたのだ。


 思い知った。

 彼女はいつでも彼女のことなど容易く乗っ取れた。それをしなかったのは、きっと、彼女を尊重してくれていたからだ。


『───────大丈夫、終わったら返すから。神憑り的なやつでしょ、多分』


 その瞬間から、『彼女』は『私』になった。





 一秒。



 一秒。



 彼女の一秒。


 

 私の一秒。



 私にとって、最後の一秒



 が



 来る。




「待っていたぞ。貴様は『殺戮』だな?」


 花のような、男だった。


『・・・・・・うそ。なんで、ここにいんの?』


 何処ぞの侍だろうか、刀を佩く者としては上等な身なりに、儚げな出で立ち。若い青年の容姿に見合わぬ、老成した瞳。尊大ながらもどこか高貴な印象がある言葉と立ち振る舞い。


 間違いない。この男が・・・・・・


「『飛梅とびうめ』」


 ────────慶長の神性婚礼、

 『憎悪』の神使い・天満大自在天神てんまんだいじざいてんじん

 またの名を、菅原道真すがわらのみちざね


『あ』


 ─────────いつの間にか、貴族の家の庭を梅の木が取り囲んでいた。

 季節外れのはずだけど、なぜか満開だった。

 そこからこぼれた白い花びらは、雪みたいに地面に落ちていって。


 ぽとり、と。

 彼女の肩口辺りに当たった瞬間。


 彼女彼女の身体は、そこから全体の半分ぐらいがごっそり吹き飛んだ。


『──────────ッ』


 ────────触れたものに死をもたらす白い花びら。それらが花吹雪の如くに舞い散る、天国のような地獄で。

 三千世界全ての厄災を司る天の神は、超然と立っていた。


オレから逃げ遂せるために『花嫁』を殺して神性婚礼を終わらせに来たのだろう。

 だが、間が悪かったな。『花嫁』が朝廷に類する者なれば、殺めるに一切の呵責はなし」


 大鯰を斬り殺した宝剣宝刀も、大蛇を射殺した弓の腕前も、終ぞ披露されることはなかっただろう。この美しい地獄の中にあっては、戦神いくさがみすら生き残れまい。


「しかし・・・・・・下らんな。考えることは皆同じと云うことだ。『解放』と『嫌悪』も既にこの場で葬った」


 ─────────彼女はもう、炭みたいに黒焦げになった傷口を抑えてうずくまってるしかなかった。だってもう左半身ほとんどないし、立ち上がるのも無理だったから。


「最期だ、慈悲をくれてやる」


 天神さまが刀を抜いた。武具のことは全然わからんけど、それは氷柱とか鏡みたいに、冷たくて綺麗だった。


 それと同時に、怖くもあった。

 だってあれは、花びらとは比べ物にならない。何万倍、何億倍の力が宿ってる、と思う。



『・・・・・・ごめん。守りたかったけど、無理だった。自分の身体じゃないし、もっと慎重になっとけばよかった』


 ────────はい。怒ってます。よくも私の身体を使ってめちゃくちゃしてくれやがりましたねコノヤロウって感じで。


『・・・・・・やばい。めっちゃ怖いかも、それ』


 でもそれは、私が死ぬことに対してじゃありません。私が死ねば、貴女も同じく死ぬのでしょう? 友と云うのであれば、それぐらいは話して欲しかった。


『!』


 けれど、私も酷いことを云ってしまいましたね。私が死を望めば、友である貴女が悲しむことぐらい、考え至るべきでした。

 ・・・・・・だから、喧嘩両成敗です。


「───────でも、せめて。仕返しぐらいはさせてください」


 ───────その時。

 天神・菅原道真は、鵺の少女よりも早く、その異状に気がついた。


「そうか・・・・・・貴様も、オレと同じ・・・・・・」


 ───────待って。なんかよく分からんけど、多分それはダメだ。

 第一、神使いになってから一回も戦ってない『君』は自己再生の仕方もわからないはずだ。こんな状態で入れ替わったら、多分すぐ死ぬ。


「死ぬのはもう、分かりきっています。どうせ避けられないんでしょう? であれば、『私』は・・・・・・


 『私』は既に一回死んでる。

 自分でも自分がわからなくなって、偉い人を殺そうとしたから殺された。


 だから・・・・・・生き残るべきなのは絶対に『私』じゃない。『私』は生きたいなんて思ったことはない。いや、違う。

 だからこれは死ぬんじゃない、いるべきだった場所に帰るだけ。なのに・・・・・・


「そんな悲しいこと、云わないでください。もう、聞いてあげません」


 ────────彼女は。

 は、いたずらっぽく笑って。


「・・・・・・これは仕返しなんですから」


 遺産『鵺の哭く夜』との契約を解除。同時に、鳥辺野とりべの夜空よぞらの器としての機能を停止。そして・・・・・・


「───────うそ、なんで」


 UGN波紋はもん市支部長、敷石しきいし弥勒みろくによる報告書より抜粋。


 ・・・・・・即ち、《マリアン》とは、自身と自身の周囲のレネゲイドを極めて精密に操作し、無からレネゲイドビーイングを生成するシンドロームであると結論づけられる。

 このシンドロームのエフェクトによって生まれた生命の自己意識には誕生の状況によって差異があるようであり、今回の一件では緋氷ひえん白影しらかげ逆月さかつきサクラ──────宿ケースが見られた。


「────────神使いが、二人になった。いやのか・・・・・・?」


 ───────私の友達が、隣に倒れていた。

 さっきまで私と同じだったはずの手で、生まれ変わった私の手を握った。


「私以外にも・・・・・・友達を作ってください」


 違う。

 今のは違う。

 分かたれたんじゃない。

 生み出したのでもない。


「美味しいものを食べたり・・・・・・陽の光を浴びたりして・・・・・・」


 

 命を。

 生きる、権利を。


「・・・・・・生きてるって、感じてください」





 一秒。



 一秒。



 私の一秒。



 彼女の一秒。



 彼女がくれた、私の一秒。





「・・・セン、パイセーン!」


「ん・・・・・・」


 眠気眼を擦る。ぼやぼやした視界が晴れた時、そこに居たのは蓮華ちゃん友達だった。


「寝てた・・・・・・一秒ぐらい」


「いや一秒では絶対になかったけども」


 UGN・・・・・・あれ、UFJだっけ? の歯鉄はてつ市支部。たぶん、今の私の住処。

 でっかい窓から西日が差してて、起きたらめっちゃ眩しかった。


「それにしても珍しい・・・・・・パイセンが寝てるとことか初めて見たかも」


「ふふ、何それ。寝るよ、私も・・・・・・生きてるから」


 蓮華ちゃんが小首を傾げる。

 そんで、変な顔をする。


「パイセンって死んでるんじゃなかったっけ? 自分で言ってたよーな・・・・・・」


「生きてるよ。死んでるけど」


 一層変な顔になった。

 めっちゃ面白い。後でルミエルちゃんに撮ってもらおう。


「・・・・・・・・・・・・どっち?」


「あー・・・・・・じゃあ、生きてる、多分」


 ぐっと伸びをして、深呼吸する。

 そういえば、お腹が空いた。



「生きてるって、感じてるから」



 今日のご飯はなんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る