SCENE14『遺された雛』
────────どれくらい、時間が経ったのだろうか。
普段は分刻みで正確な体内時計も、今はまるで機能していない。そもそも、今自分に意識があるのかすら曖昧だ。
「イバケンくんっ・・・・・・!?」
声がする。
残念ながら、今一番聞きたい女の声ではない。日常生活を無駄と断じて周囲との関わりを絶っていた賢二をして記憶に残っている、妙に耳に残る声。
「・・・・・・なえ、ぶち・・・・・・・・・・・・」
「苗渕さん・・・・・・? ううん。私っ、栗原美心! ほら、B組の・・・・・・!」
──────ああ、道理で。ハルカともども、この少女には編入初日から質問攻めにされたものだ。
「・・・・・・・・・・・・苗渕は、」
それでも、どうしても彼女の名前を声に出してしまう。今日は偶然この栗原と一緒に帰っていて、今まさに血だらけの自分を見下ろしているのではないかと期待すらしてしまう。
だが、彼女の返答は、
「苗渕さんって・・・・・・転入生の、だよね? イバケンくん、面識あったっけ・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」
───────何を、言っている。
あの日、編入初日。自分とハルカは『同時に』質問攻めを受けたのだ。交際の有無で冷やかされた記憶すらある。
にも関わらず・・・・・・・・・・・・
「何を・・・・・・俺も、苗渕と同じ・・・・・・」
「え? イバケンくんは普通に一年の頃からいたじゃん」
「・・・・・・・・・・・・ッ!!」
目眩がする。
自分の認識と世界とのギャップに吐き気さえ覚える。
何故だ?
─────────わかっている。
どういうことだ?
─────────心当たりがある。
分からない。意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味不明意味──────────
「苗渕の、記憶改竄・・・・・・・・・・・・」
言ってしまった。
言ってしまったのだから、もう自分を騙すこともできない。納得できないふりにも無理が生じる。
何故?
何のため?
───────そんなものは決まっている。伊庭賢二を守るためだ。
彼女が追い詰められ、命の危機に瀕したから『編入生はハルカ一人だった』ことにした。
過去最大規模の記憶操作エフェクトを使って、一人になることを選んだ。
・・・・・・それが、何を意味するか。
「あ」
発つ鳥跡を濁さず。
彼女は、UGNエージェントとしての役目を見事に果たしてみせたのだ。
「ああああぁあ、ああああああああああああああああああ!! あああああああああああぁぁぁぁ・・・・・・っ!!」
おめでとう、UGNトップエージェント伊庭賢二。
─────君は、今日も生き残った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます