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『今から会いたい』
その一言だけが、僕の携帯に届いていた。
短く簡潔な一文を目にして、息がとまる。実に数日ぶりのメッセージである。一つ前のやりとりは四日まえで、文化祭準備期間中の気まずさがある内容。
だけど、最新のメッセージはかつてないほどに焦っているように感じられる。
思い過ごしかもしれない。
単なる勘違いかもしれない。
それでも確かに、枝垂挫の言葉には無視できない何かが宿っている。視線で何度もなぞるたび、込められた真剣さが訴えかけてやめない。
クローゼットから上着を羽織った。
電車乗り換えアプリで時刻表を確認し、最短で会う方法を探す。田舎ゆえにバスでの移動は現実的ではない。それに無知な彼女が使うとすれば電車しかあり得ない。
「……くそっ」
親へ適当な理由をでっちあげ、家を出た。こっちから三鏡方面へ向かう上り列車は四十分も先で、歯がゆい。枝垂挫の通学駅である檜倉はそう遠くない。とはいえ、タイミングが悪ければ何十分も待つことになってしまうのだ。
それでも僕は足を動かし、下り列車の時刻を確認した。
枝垂挫がメッセージを送ってきた時点で家にいたと過程し、乗車したのはおそらく十五分まえ。檜倉駅から雨飾駅まで約九分かかる。
僕は携帯を仕舞い、走り出した。
冷たい秋の夜だった。通い慣れているのに、緩やかな傾斜は心臓破りの坂に思えた。
急ぐ必要性はないのかもしれない。たった一言だけで必死になるなんてバカみたいだと、クラスメイトは笑うだろう。自分でもどうしてしまったんだと混乱しているくらいだ。
それでも、これが正解な気がする。枝垂挫の真摯な言葉になら騙されたっていい。そう思えるくらいには、僕はこの選択を後悔しない。
息を切らしながら行く先の道を睨む。駅の明かりが見えて、それでも尚走ることはやめなかった。
ああ、もう認めるしかない。
僕も、枝垂挫に会いたい。
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