それでも、鬼神さんは憚らない

@prizon

#1 パワーバランス

 鬼神雪菜は、僕の幼馴染である。

 というかただの腐れ縁だが。


「おかわりお願いします」

「ええ、はい。いっぱい食べて育ってね」


 今日の朝食は唐揚げ白ごはんセット。


「ははあ。やはりともえさんの唐揚げは絶品ですね。もう匠から免許皆伝してもらってもいいんじゃないですか?」

「ふふふ。雪菜ちゃんは褒めるのが上手ね。ここのあまり、食べちゃって」


 そう言って、優しい、息子思いの母さんは僕の皿から唐揚げを徴収した。


「ねえ母さん。僕の皿からの唐揚げが誘拐されちゃったんだけど」

「ん?なんか駄目?」

「…いえいえ」


 目を合わせていられず、僕は残りの数少ない、白米を見つめる。


「ふはぁ」

「もっと食べていいのよ」

「あっ。それじゃあ」

「…」


 今度は(無)邪気あふれる幼馴染が父さんの皿に箸を伸ばした。

 無表情で見つめる父さん。美味しそうに頬張る幼馴染。


父さんが口を開けた。


「なあ母さんや。唐揚げはもうないかい?十数年あの絶品の唐揚げをね。食べ続けた夫にとっては―――」

「あらあなたもうこんな時間なのよ早く行かないと遅刻しちゃうわ」

「………そうだな」


 父さんは席を立ち、悔しげに幼馴染と母を見て、出て行き際に僕はアイコンタクトを受け取った。


『生きろ、我が息子』


 胸がジーンと来た。熱い何かがこみ上げてくるようだった。


「んー。美味しー」

「雪菜ちゃんってばほんとに可愛いわねえ」


 いっそうちの子にならないかしら、という明らかにヤベー顔を、僕は目にしてしまった。


 

 

 そして。雪菜は知らないが、母さんは年間唐揚げ大賞(県主催)で鶏の覇者Chicken championと周囲から崇拝されている。



 

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