第19話 少々、はるかに憂いる

 横浜市港北区大豆戸町にある『華麗宗親慈山天熊寺』の境内に静かに眠るように(?)佇む、青龍塔の中で暮らしている「引籠り蝦夷羆」ビビるⅡ世こと、よろしくま・ぺこりの配下たちの最高意志決定機関にして、最強・最高勢力である『ぺこり十二神将』が、揃いも揃って『宇宙一戦略も容姿も美容も至極なる美の麗人花。または尤もなりし美奇乃花』と天の川銀河中で讃えられる、諸葛純沙から離脱して謀反することを決し、その根幹組織である『悪の権化』の将官級の隊員からエッセンシャルワーカーさんまで全員が見事なまで、一人として欠けたる事なく有象無蔵が自宅をリノベーションさせて築城した朝鮮式山風城に入りこませやがった。有象という男にはある種ものすごいカリスマ性があるようだ。

 ぺこり自身は初めから「有象くんはおいらの大切なお友だちで、純沙はとても優秀で信用信頼するに足るものだけども残念ながらあくまでも家臣の立場だからね。『友だちを捨ててさあ、家臣を応援することは義に反するから』でしょう? 今回はごめんな。でも、純沙を敵に回すと後が怖いからね。おいらは永世中立国を急遽建国して国連に加盟しておこう。ほかの者は好きにすればいいよね! 純沙さあ、首級を獲られたくなかったらアドバイスくらいはしてあげるよ」

 などと軽口を言った途端、

「はい。早速にもアドバイスをお願いいたします」

 間髪入れず諸葛純沙は臆面もなく頭を下げた。ああ、この人は特段に意固地張りさんと言うわけではないんだと、作者のわたしも驚く程の身の軽さ。考えてみれば簡単な理屈である。頑迷な人物、しかもクールビューティフルな女性。これだけでもう普通であれば他の隊員に最悪印象を与えてしまいOUT! なのである。しかし、純沙は至極純粋に大奇抜で超奇想天外、超絶技巧な荒技をこれまで、ほぼゲーム感覚で繰り出してきた。

 特に対『銀河連邦』戦で作戦創案された『太陽&太陽系惑星ビリヤード作戦』はもし、造物神(ザ・クリエイター)が見物していたら実家に帰っちゃって、しばらく引き篭もる程のものだった。よって、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の方々はメランコリーになったのち、

「あの宇宙人娘、殺す!」

 と、こういう時にぺこりが助け船を出したのに『悪の権化』ほぼ全員、 更に上級大将格くらいから首脳陣である猛者十二名で組織される『ぺこり十二神将』と参謀本部に科学技術庁、忍者衆が皆揃って有象無蔵の大邸宅を朝鮮式風山城に造り替えた場所を本営としているところに押し寄せている。


「ええと、みなさん。十二神将とは元来、薬師如来のSPを指すのですが『十二』が宇宙の真髄、円と親和性が良く『黄道十二宮』や『十二支』……ああ、すみません、ちょっと違った説明になってしまいました。実は『十二支』そのものが薬師如来の十二神将なのでありまして、この国では最後の一将が「豚」ではなく「亥」なのは『十二支思想』がこの国に輸入されはじめころは、この国に人工生物・家畜である「豚」はまだいなっかったからなのですよ! もし、居たら『亥年』の人は『豚年』の恥辱を味合うことになっていたのです。実際、中華では本当に『豚年』なのですよ。『十二支』は国ごとに違っていて『猫年』やぺこり氏が喜びそうな『熊年』のある国もあります。要はオリジナルの『十二支』の中に自国に存在しない動物がいれば、身近な動物にチェンジできるということなのです」


「当時は『加工生産物であるブタ』も『万能なる塗り薬・ニベア』もこの国には輸入も製造もされていなかったのです。ああ『ニベア』のくだりは『聖☆おにいさん』を読んで感銘を受けた部分のぱっくりさんであリます。もし豚の将軍が居たら、例え『十二神将』とて、出陣即、敵による捕食の危険がある。やはり豚将軍よりも『山鯨』という異名(人が牡丹鍋にするための方便だが……)を持ち、実際に年に何名かの年寄りを殺す「強い」というより「嫌な生き物」ですが『十二神将』ですからね。「食われる前に『喰う!』というポリシーなのでしょう……」


 有象ときたら、合戦が今にもはじまるという時も、つい学問を『教授』してしまう。彼は「インプット」した「教養」をなのだ。あとは美人さんと交合できればそれで良い。そんな、ひと昔前の「学習欲と性欲が満たされれば過分な物は要りません」的なかなり『細分化された単細胞』を持つインテリゲンチャな有象ちゃんをなぜ、優秀な人材を使うことを好む諸葛理事長が執拗に責めるのだろうか?

 ああ、ここがじっくり考えてみると、この小説における唯一の「泣ける、デトックス効果のあるシーン」かもしれない。もちろん、個人差大いに有りである。


有象が『薬師如来十二神将』『十二支』さらには『十六羅漢』にまで心が及んで行き、

「ああ『十六』は『十二』よりさらに円と親和性が強い。ですから、プロ野球も12球団でなく16球団制に方が良いのに……」

 とさりげなく次回作の宣伝までしてくれる。


「有象の殿さま、あとどれくらい将兵が集まるんかね?」

 地元緑区の町内会長のご老人たちは有象の事を領主だと思い込んでいるらしい。有象家は江戸時代において、庄屋か名主程度であって武士ではなく豪農と言った方がいいであろう。しかし、庶民においては武士と豪農の区別などは関係なく、自分たちに対して「大徳」を持つ者かどうかが重要なのである。そして有象家は代々「滅私奉公・万国博覧」というちょっと良くわからない『四字熟語』を掲げている為に農民や賎民層にまで助力をしていた。故に今回の合戦が公になると、青葉区、都筑区の町内会長たちから「援軍」の申し出を受けたが、有象は、

「いやあ、多くの一般の方に万が一の事があっても責任取れないし、希のとこの佐竹源氏の一族が、騎馬か秋田新幹線出て来てくれるから、気持ちだけいただきます」

 と盆暮れ正月に藪入りと言った時候の挨拶に終わると思ったが、なんとぺこり経由でやんごとなきお方が父子揃って、

「各国の旧国守及び守護職家が打ち揃って、有象無蔵教授の生命及び知識を存える事を希望いたします」

 と異例の生中継で宮内庁から発言した為、佐竹一族の事は知っていても「洞ヶ峠を決め込んでいた」全国の武人たちがわんさかわんさかイェーイ・イェーイと集まってくる様は、全て地方局から始まって在京キー局が24時間仲介する異常事態となった。


 一方の純沙には誰一人、援助の申しでも無かったが、また彼女は魔法、いや科学の力を使った。なんと、大量に「自分のクローン」を作成したのだ。知らん顔をしているが、水沢舞踊がこっそり手伝ったようだ。


 かくして『新横浜国際球技場』『横浜アリーナ』と横浜市交通局を占拠し、東急東横線、JR横浜線の港北区域を確保した純沙軍と町内会から旧諸国国司・守護職を揃えた有象軍が次回、激突する!

 





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