第253話 どちらが好きなんですか?
「リオ」
振り返ったリオに、レニはなるべくさりげない口調で尋ねる。
「さっき、コウマと何の話をしていたの?」
「さっき、ですか?」
「ご飯のとき、二人で外で話していたから」
リオは少し考えてから、ああ、と呟いた。
「レニさまにお話しするようなことではないです」
「そ、そっか」
誤魔化すように笑ったあと、レニはうつ向く。
その姿を見て、リオは寝台に歩み寄り、レニの隣りに腰掛けた。
「レニさま」
リオはレニの頬に手を当てて、優しく自分のほうを向かせる。
「どうしたんですか? 何か気にかかりますか?」
「え、う、ううん、大したことじゃ……」
小さく頭を振って再び下を向きかけたレニの唇を、リオはついばむように塞ぐ。
「言って下さい、レニさま。聞きたいです」
「その」
そう言いながらもリオはレニの顔から唇を離さず、頬や耳を愛撫する。その心地よさに飲まれそうになる寸前、レニは慌てて言った。
「前にコウマに言われたんだ。リオに好きだって言っていいか、って」
レニが項垂れたので、リオは動きを止めた。
ジッと腕の中にいるレニの顔を見つめたまま、リオは静かに口を開いた。
「レニさまは何と答えられたのですか?」
「え?」
「コウマにそう言われて」
顔を覗き込まれて、レニは顔を赤くする。
「そのう、それはリオが決めることだから……って」
「俺が決めることなんですか?」
「う、うん」
リオは、顔を上げられずにいるレニの顔を見たまま、瞳を細める。
「なるほど。レニさまはコウマから俺を譲って欲しいと言われたら、『はい、どうぞ』と譲るんですね?」
「え? え?! ち、ちがっ……!」
レニは弾かれたように顔を上げる。
「私がどうこうじゃなくて、リオの気持ちが一番だから……」
リオはレニを腕の中に捕らえたまま、顔だけはツンと横を向く。
「レニさまは、フローティアに行く時に乗った船の船長にもイリアス様にも俺を譲ろうとしましたよね?」
「え、い、いや……それは譲るとかじゃなくて……」
焦って言葉を紡ぐレニに、リオは皮肉たっぷりな口調で言う。
「俺はレニさまにお仕えするためにいるのですから、レニさまのご命令に従います。レニさまが行けと言われれば、どこにでも行きますよ。今夜はどこに行けばいいんですか? コウマのところですか? 部屋に行って朝まで慰めればいいんですか?」
「ちが……違うっ」
レニは慌ててリオの服の裾を掴み、必死に首を振る。その姿を見ているうちに、リオの瞳から皮肉な光が消えていった。
リオはレニの手を取って、顔を覗き込む。
「何が違うんですか?」
「え……えっと」
レニの小さな手に唇を当てながら、リオは尋ねた。
「教えて下さい、レニさま。俺はどうすればいいですか?」
「え、あっ、あの、リ、リオは……リオの好きなようにして……わっ!」
レニが言った瞬間に、リオはいきなりレニの手を引いて腕の中に包み込む。驚きで開かれた唇に口づけし、舌と唇で丹念に愛撫する。
恥ずかしさと心地よさで顔を赤らめるレニの耳に唇を当てて、リオは吐息するように囁いた。
「かしこまりました、レニさま。ご命令通り、好きなようにします」
「え……ふ、ひゃ、リ、リオ」
頬や首筋に口づけされて、レニは身をすくませる。だが優しい愛撫を受けているうちに少しずつ体の緊張が緩んでいく。
リオは性急さのない柔らかな手つきでレニの体を愛で、小さな蕾がゆっくりと開花するように少しずつ体を開かせていく。
レニが夢見るようにぼんやりとしたハシバミ色の瞳でリオを見つめた瞬間、ふとリオは言った。
「レニさま」
「ふぁ……な、なに?」
リオは翠の光彩を帯びた瞳を細めて言う。
「いま……『寵姫さま』と言いませんでしたか?」
「えっ?」
ハッと我に返った瞬間、リオがその顔を覗きこんだ。
強い視線を向けられて、レニは我知らず唾を飲み込む。
リオは低い声で、囁くように言った。
「こうしている時、レニさまは……いつも誰のことを考えているんですか?」
「へっ……え?」
何を聞かれているかわからず大きな瞳をしばたかせているレニの顔に、リオは息がかかるくらい顔を近づける。
「レニさまは言っていましたよね。最初に好きになったのは『寵姫』だと。今も好きだから『寵姫』のことを消さないで欲しい、と」
「う、うん」
リオが何を言わんとしているかわからず困惑しつつも、レニは頷く。
リオはそんなレニの顔を見て、おもむろに言った。
「レニさまは俺と寵姫、どちらが好きなんですか?」
「は……え? えっ? ええっ?!」
レニは驚きで目を見開き、マジマジとリオの顔を見る。
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