第185話 提案がある。
12.
夜半、オズオンはふと人の気配を感じて目を覚ました。
深い眠りから一瞬で目を覚ますと、オズオンは片時も離したことがない自らの愛剣を手に取り
すぐに相手の攻撃を受けられるような体勢を取り、油断なく剣を構えたオズオンの前に、音もなく人影が現れた。
「誰かと思いきや……驚いたな」
何とか皮肉な口調を装おったが、さすがに驚きを隠せずオズオンは呟く。
「何をしに来た、チビ。てめえに夜這いされたところで、モノが役に立ちそうもねえんだかな?」
「叔父さん、話がある」
薄い暗闇の中から現れたレニはオズオンの言葉にはまったく反応せず、感情のこもらない単調な声で言った。
オズオンは警戒を解かず、鋭い眼差しでレニの様子を探る。
「どうやってここに入った?」
レニは近くにあった椅子を引き寄せながら答える。
「部屋の前の見張りには眠ってもらっているよ」
オズオンはレニの動きから目を離さずに、剣を下に下ろす。
「おい、チビ。剣を持っているなら下に置け。話はそれからだ」
レニは肩をすくめると、腰から剣を鞘ごと抜き床に放った。
オズオンは剣を片足で踏みつけ、再びレニのほうを向く。
「で、話って何だ?」
「さっき、リオが私のところに来た」
オズオンのこめかみがわずかに動く。
レニは独り言のように呟いた。
「やっぱり、リオを寄越したのは叔父さんじゃないんだ」
オズオンは少し考えてから言った。
「ああ、俺じゃねえ」
レニは、しばらくその表情を確認してからゆっくりと口を開く。
「叔父さん、提案がある」
13.
リオは、レニの部屋の寝台の中にいた。
レニはしばらくリオに抱き締められるままになっていた後、リオの寸法に合いそうな服を持ってきて着替えて少し休むように伝えた。
リオはレニに導かれるままに寝台の中に横たわり、瞳を閉じた。うとうととまどろむ中で、レニの部屋に来る前の出来事が頭の中に蘇ってきた。
※※※
夕食の後、リオはシンシヴァにエリカの下に連れていかれた。
エリカはいつも以上に機嫌が悪く、自分の前に腰かけさせたリオの前に立つと、閉じた扇の先で顔を上げさせた。
「『リオ』ねえ。この人形が」
けがらわしげに眉をひそめると、エリカは扇を外してリオの顔を見下ろした。
「ねえ『リオ』、お前、エウレニアのことが好きなの?」
項垂れていたリオは、ハッとして瞳を見開く。その瞳がみるみるうちに恐怖で染まっていく。
微かに震えながら、リオは激しく首を振った。
「い、いえ、いいえ! そ、そのような畏れ多い……そのようなことは決して!」
エリカは紅く彩られた唇を吊り上げた。
「ふうん、まあどっちでもいいわ。あの子のほうは、お前のことが好きみたいだから」
「……そんなことはございません!」
強い意思がこもったリオの叫びを聞いて、エリカは一瞬虚を突かれたように、その美貌をまじまじと見つめた。
普段の従順さが嘘のように、リオの緑色の彩が浮かんだ瞳は恐れげもなくエリカの顔に向けられていた。
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