第85話 石頭の受付係
門の内側の、丘の上全体が学府の敷地になっているようだ。敷地は訪れるいかなる人間も平等に受け入れることを示すかのように、柵ではなく常緑樹で囲まれている。
門の向こう側には手入れが行き届いていた広い庭が広がっており、学生らしき若者の集団や町の人たちなど多くの人が行き交っていた。
その庭の奥には、薄闇の中で淡く青い光をまとう巨大な四角い建物が建っている。
周辺にはもう少し小さい建物や高い尖塔もあるが、青い光を放っているのは中央の建物だけだ。
「本当だ。王宮の建物に似ている」
レニは建物を見つめたたま、口の中で呟く。
三人は、敷地の中に入った。
構内に設置された案内板を見たり人に聞いたりして、学府内にいる人間に面会するための手続きを取る、事務局に向かう。
「ソフィスさまと同じスカーフを巻いているかたがいますね」
リオは、相変わらず魅せられたような眼差しを辺りに向けながら呟く。
リオの声に誘われるように、レニも周囲を見回す。
庭から建物の中に入ると、ソフィスが「学府に五年在籍すると与えられる学問の徒の証」と言っていた、深い鮮やかな色合いの青いスカーフをつけているものが多く目につくようになる。
詰襟の服の下にきっちりと巻き付けている者、気崩した服に合わせて洒脱な巻き方をしている者、緩い巻き方で首からぶら下げているだけの者、身に付けかたも色々だ。
若い女性の姿が珍しいのか、構内でも学生たちは好奇の眼差しを、とりわけリオのすらりとした優美な姿に向けてくる。
事務局にたどり着くと、受付に座っている若い男にレニが話しかけた。
「学府の中にいる知り合いに会いたいんだけど……」
受付係の男は、胡散臭そうにジロジロと三人の姿を見る。
「面会の約束は?」
「ええっと、たまたまこっちに来たから久しぶりに会いたくて……向こうは私が来たことは知らないんだ」
「じゃあ、無理だね。一度、本人に連絡してもらわないと」
男はけんもほろろにそう答えて、話は終わったとばかりに仕事に戻ろうとする。
「おいおい、ちょっと待てよ。せっかくはるばる来たって言うのに、そりゃねえだろ」
コウマが抗議の声を上げる。
「せめて口利きぐらいしてくれたら、どうなんだ?」
男はコウマの顔を一瞥し、素っ気なく言った。
「はるばる来たかどうかなんて、こっちの知ったこっちゃない。別に私が君たちに、来てくれと頼んだわけでもないしね」
「かあーっ、なんつう石頭だ」
コウマは掌で顔を覆って、大仰に呻いた。
だが、案内係の男がまったく反応しそうにないのを見ると、すぐに表情を改めて考え込む。
「全然、話を聞いてくれないね」
レニがガックリと項垂れると、コウマは狡そうに目を光らせて答えた。
「だいたい役人つうのは、どこでもこんなもんだよ。勝負はここからだ。おい、リオ」
名前を呼ばれて、リオは顔を上げる。
「ちょっと耳を貸せ」
言われるがままに顔を寄せたリオに、コウマはヒソヒソと何事か囁いた。
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