第7話 突然の訪問
10.
明け方、目を覚ましたとき、リオがベッドの脇に座っているのを見て、レニはひどく慌てた。
「リオ、いつからそこにいたの?」
赤くなった顔を隠すように、毛布を目元まで引き上げたレニを見て、リオは優しく微笑んだ。
「夜明け前に戻りました」
レニは辺りを見回した。
壁の隙間から入ってくる日の光の強さや外の騒がしさから考えると、既に陽がかなり高くなっていそうだ。
「お、起こしてよ」
「よくお休みのようでしたから」
レニの不満を笑って受け流すと、リオは立ち上がった。
「お食事を持って参ります」
木の扉を開いた瞬間、リオの動きが止まる。
何かを遮るように、両手を広げて入り口を塞いだ。
「主人はまだ寝ております」
「起きているんだろう? 食事を持ってきてやったんだ」
陽気な声と共に、戸口とリオの体の隙間から、浅黒い肌の精悍な男の顔が見えた。
二十代半ばくらいの一目で船乗りとわかる男だ。
顔立ちはなかなか整っている。
だが整った顔立ちよりも、ふてぶてしい表情や、抜け目のなさそうな、野生の獣のような生気に満ちた黒い瞳が印象に残る。
レニは寝床から半身を起こして、男の顔を見つめた。
「船長さん?」
この部屋に入る時に一度だけ会った。
サイファーは唇を歪めて、ニヤリと笑った。
「覚えていてくれて光栄だね」
サイファーは、なおも部屋の中にいれまいとするリオの細い腰を強引に抱いた。
レニはハッとしたように目の前の二人の様子を眺め、自分の意思では目が離せなくなったかのようにマジマジと見つめた。
レニの視線を気にする素振りも見せず、サイファーはリオの腰を抱き寄せ、耳もとで囁く。
「お前の主人と話がしたい。外で待っていろ」
その言動に、ある種の馴れと労りが含まれていることに嫌でも気付く。
急速に胸の中に強い不快感がわいて、レニはリオの問いかけるような眼差しをわざと無視した。
それでもリオはサイファーを部屋の外に押し止め、訴えるようにレニの顔を見つめる。
レニはリオから顔を背けたまま、言った。
「リオ、外に出ていて。お礼も言いたいし」
そう言われても、リオはなおも迷うように、その場に立ちすくんでいた。
急に素っ気なくなったレニの態度に、戸惑っているようにも見えた。
レニとは対照的に、サイファーはこの男にしては珍しく、優しい宥めるような笑みをリオに向ける。
「心配すんなよ。ちょっと話すだけだ。お前の大事なご主人さまを取って食うわけじゃねえよ」
リオはもう一度、レニのほうを見た。
レニが自分の視線に応えないとわかると、悄然として部屋の外へ出ていった。
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