大広間へ

「新入生は、大広間へ向かいなさい」


 そう誘導され、私たちは人の流れに身を任せて進んだ。


「エルフレーダ様、今日は組み分けの儀式がありますよ」

「組み分け……」


 なにそれ某児童向けファンタジー小説みたいじゃん!

 私がプレイしていたシナリオでは、フローニア魔法学園の本編は、既に組み分け終わってからのスタートだったんだよね。

 赤色、青色、緑色、黄色の寮、ハウスカラーがあって、入学式時点で自分の所属する寮が決定するんだ。


「帽子被る、あれですの!?」


 思わず、令嬢っぽい喋り方になっちゃったじゃん、いやいいんだけど。


「いえ、帽子は被りません」

「帽子は、ないんですの……」


 あれやりたかった、あれ。あの寮だけはやめてくれって言い続けるあれ。


「ちなみにエルフレーダ様は、赤のハウスカラーです」

「盛大なネタバレやめい。……あ、よく考えたら知ってましたわ」


 だって、クルト様や主人公である藤岡友理奈も赤のハウスカラーだったから。

 エドワードさんを見上げれば、彼はくすくすと笑う。


「大広間につきましたら、自分宛ての封筒が置いてある席に座るのです。封筒の中に、組み分けが書いてあります」

「でも私、赤なんでしょ」

「くれぐれもご内密に。現状はゲームをプレイした人間しか知りえないですから」


 だったら言うなっちゅうの!


 思わず足取り荒く、大広間へと向かう。

 そこには、まさにあの某ファンタジー小説の映画化作品にあった風景が!

 ながーい、長テーブル。終わりが見えない、長いテーブル。


「あ、ダメダメ、馬! キミが食べていいごはんじゃないよ、多分!!!」


 ああ、早くお馬さんに名前をつけないと呼びづらい!

 そう思いつつ、一目散にテーブルに置かれた料理皿に飛びつこうとするお馬さんを捕まえる。


 そもそもまだ、食べていいかどうかも分からないし。

 そんなことを考えつつ、長いテーブル四台の上を見て回る。


「ちなみに、あなたの席はクルト王子の隣です。当然ですが」

「そういう忖度は必要ないのですが」

 

 なんとなくそんな気がしていました。そう思いつつ、視線を動かす。

 そしてしれっと、本日二回目のネタバレをくらったぞ私。

 しかも、今回のネタバレは私の知らない本物のネタバレじゃないか。

 藤岡友理奈ゲームプレイヤー目線では、王子しか目に入らなかったから、隣に誰が座っているかまで見てなかった。

 人だかりができている場所なら、既に一か所見つけている。

 そしてその人だかりの真ん中に、いかにも王子様といった出で立ちの人間が一人。


「あっちですわね」


 そうエドワードさんに声をかけて、そちら側に行こうとした時。

 お馬さんが私の頭の上から降りて、どこかに走って行く。


「お馬さん待ってぇええええ!」


 こんな喧騒の中にまぎれてしまっちゃ、探すのも大変だからああああ!!

 そう思って全速力で人混みをかきわけて必死でお馬さんを追いかけたら。

 お馬さんは事も無げに、とある人の膝の上でおとなしく撫でられていた。


「あ、あなたは先ほどの……」

「ああ、さっきはどーも」


 お馬さんが載っていたのは、あのフードを被っていたお兄さんの膝の上。

 今はもうフードをとっていて、色の薄い金髪が肩口まで伸びている。

 少し垂れた涼し気な瞳が美しい。ああ、尊い。ごちそうさまです。


「……席は、そこだ」


 後ろから、声がかかる。おお、さっきの西洋風騎士さん!

 短めに切りそろえられた藍色の髪が、フードのお兄さんと並ぶと目立つ。

 まるで、太陽と夜みたい。

 彼は私の腕を見て、少し動揺した顔をした。

 どうしたんだろ、あ、ぬいぐるみ持ってないから?

 ぬいぐるみなら、鞄の中にしまったけれど。

 彼が差し示した場所は、フードのお兄さんの隣。あれ、おかしいぞ?

 クルト様を間に挟んで、私と藤岡友理奈が両隣になるんだよね?

 でも私の席がここだとすると、隣の席、ないんだけど。

 私がテーブルの端なんですが? 一体、どうなってるの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る