魔法学園入り口にて
「うおおおお! すげー!!! なにこれ絶景!!!」
「エルフレーダ様、お願いですから落ち着いてくださいお願いします」
魔法学園入り口にたどり着いた、二人と一頭。
目の前には大きなお城のような建物がそびえ立っていた。
まさに、絵本の中や某テーマパークでしか見たことのないような、お城。
そのお城の周りを取り囲むようにして、大きな西洋風の建物が建っている。
これが、フローニア魔法学園。素敵すぎる!!!
思わず、あらゆる角度から眺めてみてしまう。
「くそ庶民が」
舌打ちをしながら誰かが通り過ぎて行ったような気がするけど気にしない。
モから始まる超有名音楽家みたいな白髪カツラに深紅の外套を着た人が通り過ぎて行ったような気がするけど、気にしない!
いや、気にする! 誰よあれ!!! そっちこそ、くそ庶民が!
バカって言ったやつが、バカなんだからね! ふん!
「……おい」
今度は明確に、自分に向けて発せられた声がした。
思わず声のした方へ振り向く。そこには二人の人物が立っていた。
一人は、ファンタジー小説でよく見る西洋風の騎士の甲冑に身を包んだお兄さん。
不機嫌そうな顔をしているから、多分この人が私に声をかけてきた人だと思う。
もう一人は、フローニア学園の制服であるフード付き外套の、フードを被った人。
私はなぜだか、フードをかぶっている人物の方に目を奪われた。
フードのせいで表情はよく分からないけどフードの暗闇の中で、きれいなエメラルドグリーンの瞳が輝いている。
すらりとした背でズボンを履いているから、おそらく男性。おそらく、だけど。
「ああ、ごめんなさい邪魔でしたよね」
あわてて道の脇にどく。
すると甲冑のお兄さんは、無言で私とエドワードさんの傍らを通り過ぎた。
視線は、私の腕の中のぬいぐるみを見つめたまま。
あれかな、小さな子どもじゃあるまいし、ぬいぐるみを持つなってことかな?
「すみませんねぇ。愛想のないヤツで」
快活な声が響く。どうやら、フードの人物から発せられた声のようだ。
声を聞いて分かった。この人は、間違いなく男性だ。
彼は軽い足取りで私の前にやってくる。
「オレの連れ、コミュニケーション能力が低いのが玉に瑕でね」
フードに顔が隠れていることを忘れるくらい、明るい声。
しかし、視線が私の頭の上に向いたとき、エメラルドグリーンの瞳が細められた。
「……その馬、どこで見つけた?」
先程までとは打って変わり、低く、抑えた声。
頭の上のお馬さんが、尻尾をぶんぶん振っているのが分かる。
初対面だけど、お馬さんはこの人のことが気に入ったのかな?
「
購入、というよりは半ば押し付けられた、という表現が正しいかもしれないけど。
フードの人は、すっと風のように私の傍らにやってくる。
そしてすれ違いざまに私の耳元でささやいた。
「……間違ってもそのたてがみ、切るなよ」
「へ?」
思わず変な声で聞き返してしまう。
多分その時私は、きょとんとした顔をしていたんだと思う。
その人は私の顔を見て、鼻を鳴らした。でも不思議とバカにされた感じはしない。
そのままその人は、立ち去ってしまった。すれ違いざまに見えた、雫型の深い緑色に輝く宝石のイヤリング。その色は、先ほど見たその人の瞳の色によく似ていた。
エドワードさんが腕組みをしつつ、うなる。
「……なるほど」
「どうしました、エドワードさん」
「エルフレーダ様。これはもしかすると、もしかするかもしれません」
何かを思いついたかのように、ぽんと手を打つエドワードさん。
見た目のせいで、様になるから余計に腹が立つ。
「すみません、おっしゃっている意味がさっぱり分かりません」
「さっきの話ですよ。乙女ゲームの主人公以外だって、恋愛ルートがいっぱいあったっていいだろうって話です」
ああ、その話ね。それが今の人と、何の関わりが?
「意外と、ああいった小さなイベントが積み重なることによって、恋愛に発展していくのではないかとわたしは思うのです」
「はいはい、そうですね」
つまりはさっきの人が、私、エルフレーダ・クローネリアの攻略対象になるかもしれないって話だね分かります。
「いらない想像は大概にして、行きますよ」
にやにやしているエドワードさんを引き連れ、今度こそ私は学園内へと足を踏み入れたのだった。
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