フローニア魔法学園へ、ようこそ!
馭者さんからの贈り物
「エルフレーダ様、到着いたしました」
窓越しに馭者さんの声が響いてきた。エドワードさんに導かれ、私は馬車から降りた。
「荷物はすべて、エルフレーダ様の寮の自室へお運びいたします」
「ありがとうございます。いつもお疲れ様です」
馭者さんに声をかける。馭者さんは照れくさそうに笑った。
「僭越ながら、私も贈り物を用意いたしました」
「ええ!? ありがとうございます! 気を使わせてしまいすみません」
うさぎのぬいぐるみを小脇に抱え、馭者さんからのプレゼントを受けとる。
ピンク色のかわいい包装紙にくるまれた、赤いリボンでくくられた箱。
ああ、なんてかわいいんだ! そう思った時だった。
なんか、箱の中で動いてる!?
「あべしっ」
箱の中から何やら足が飛び出してきて、私の顔にクリーンヒット!
私、現代日本でもトロい性格だったから、ぼーっと歩いていたらボールが飛んできて顔に命中することがあった。
今日も今日とてアンラッキーガールだ。
「わわわ、申し訳ありませんっ」
馭者さんが、あわてて私から箱を取り上げる。しかし、時すでに遅し。
箱の中から飛び出したのは、黒い馬。体と同じ漆黒の翼をもっている。一つ残念なのは、ごわごわしたたてがみが長すぎて、目元が見えないこと。
これだと、表情が読み取りにくい。そもそも、この子も前が見えなくて困るのでは!?
「黒いお馬さん……」
「あの店員! ……すみませんエルフレーダ様、こちらは返してきて、白馬と替えてもらってきます」
御者さんが言うには、白馬を買うつもりだったという。
だけど、この黒馬さんが厄介者で誰にも懐かないものだから、どうにか買ってもらえないかと店員に何度も頼まれたそうなのだ。
「黒いのは不吉だし、白にするつもりだったのに! だからあの店員、無料でいいって言ったんだな!」
箱をひっつかんで、今にもお店へ向かっていきそうな馭者さんをなだめる。
無料で譲ってもらったのなら、もういいじゃん。
ラッピングもしてもらったわけだし。
そう言いそうになったけど、礼儀を忘れてはいけない。
「あ、いえいえ! 私、黒い方が好きです! むしろそっちで正解です!」
確かに、日本では白馬が神馬として、神社にいたりもして神々しいのは、白馬だとは思う。昔は、白馬が大好きだったし。
だけどいつの間にか、白馬だけでなくて黒い馬が好きになったんだよね。なんか、かっこいいじゃん。
手をヒラヒラと振って、御者さんに笑いかけているとずっしりと、頭に重みが。
エドワードさんが教えてくれる。
「エルフレーダ様、今、馬が頭の上に乗っています」
「ええ、そんな気はしました」
私が答えると、エドワードさんが笑いをこらえている表情をする。
「馬が、頭の上でゆらゆら揺れてます」
「何が気に入らないのでしょう……」
崇め奉れば機嫌を直してくれるかな。
そんなことを思いつつ、エドワードさんに尋ねる。
「そもそも、学園にペットの持ち込みって許可されているのですか?」
「ええ、それは問題ありません。この馬は魔法動物の一種ですからね。学園の校則では、魔法動物の一匹や二匹、連れて歩いても問題ありません」
それはよかった。でもこの馬、数か月でデカくなるのでは……?
まぁ、後で魔法動物について調べてみよう。
そんなことを思いつつ、私は馭者さんにお礼を言い、頭の上に乗ったままの、お馬さんをひきつれ、魔法学園へと向かった。
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