新たな出会い

 その時、ふとした疑問が沸き起こった。


「なぜ私の名が分かったのです……」


 さっきすれ違ったときは、名前なんて名乗っていないはず。

 でも確かに、騎士の彼が指さした場所の封筒には、私の名前が書いてある。

 多分私がいぶかし気な顔をしてたんだろう、彼はふっと笑った。


「そういう察しのいいお姉さんは、好きだぜ?」


 びっくりした。似たようなセリフ、ジャパニーズカルチャーで聞いたことがあるから。

「アンタの予想しているような答えをあげられなくて申し訳ないんだが。ただ知識として、アンタのこと知ってただけさ」

「知識として……」

「クルト・コーンウィル王子の婚約者であるエルフレーダ伯爵令嬢なんて、むしろ知らないヤツいないんじゃねーの?」


 そう言われて、はっとなる。

 確かに今の私は、ある意味で有名人だ。第一王権者であるクルト・コーンウィル王子の婚約者。将来を約束された者。令嬢たちの中でもある意味でトップに君臨する。


 忘れかけていたけど、今の私はものすごいステータス持ちだった。もうすぐそれを失うことになるわけだけど。


「なるほど。……確かに、知られていて当然ですね」


 そう言いながら、席に腰掛ける。すると、私の向かい側に別の女性が座った。カールしたかわいい長髪に、シルクのようななめらかな素材のリボンの髪留めをした彼女は、私を見て、あわてて立ち上がった。


「あなたはっ、エルフレーダ・クローネリア様ですわよね!?」

「え、ええ、まぁ……」

「あたくし、アイーシャ・クラウニアですわ! といってもおそらく、分からないでしょうけれど……」


 ごめん、誰。いや、今名前は聞いたけれども。

 後ろに控えるエドワードに視線を送ると、彼はにこやかに微笑む。


「アイーシャ様。エルフレーダ様が出席なさるパーティーには必ずお呼ばれになられている、アイーシャ様ですね。よく勉強がおできになると伺っております」

「あたくしのような低級貴族、エルフレーダ様の目には入っておりませんでしたでしょうが。ええ、よくパーティーなどには呼んで頂いておりますわ」


 勉強できるのかぁ。この人とお友達になれると楽そう……。

 そう思いながら、封筒を開く。赤なのは、分かっているけど。


「クルト王子様は、赤の寮だそうですのできっと、婚約者であるエルフレーダ様も、赤でいらっしゃいますわね」


 そう言ってアイーシャさんも私の後ろから封筒を覗き込む。

 ついでにとばかりに、フードのお兄さんと騎士のお兄さん、エドワードさんも覗き込んできた。そして、全員で絶句した。


 最初に口を開いたのは、アイーシャさんだった。

 彼女は髪を振り乱した。


「これは何かの間違いですわ! 学園長に文句を言ってまいりますわ!!!!」

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