魔法学園出発の日。

「エルフレーダお嬢様、こちらをお持ちになってください」

「お嬢様、クッキーを焼きましたのでぜひお持ちください。学園にも定期的におやつをお送りするようにいたします」

「お嬢様、新しく服をデザインし、作ってみました。それと、服に似合う靴やアクセサリー、鞄もご用意しております。ぜひこちらをお召しになってみてください」


 エルフレーダが魔法学園の入学式に出席する日。エルフレーダが初めて自分の家であるクローネリア家を離れ、学園の寮に入寮する日。

 私は、たくさんのお手伝いさんに囲まれてあちこちに笑顔を振りまいていた。


 お手伝いさんから次々と手渡されるプレゼントの数々を受け取る私を、エドワードさんもどこか微笑ましげに眺めつつ、プレゼントを馬車へと詰め込む。


 エドワードさんのプレイヤーである黒瀬さんが見た設定集によると。学園入学のため、旅立つエルフレーダを見送ってくれたのは、彼女のお父様だけだったとか。

 理由は簡単。「彼女のことが、好きじゃないから」。「彼女が全寮制の学園に入学してくれて、清々するから」。


 それが今! 大きな変貌を遂げている。見よ、ゲーム世界の女神よ!

 クローネリア家に在籍するお手伝いさんのほとんどを見送りに参加させることに成功、見送りに来ていないお手伝いさんも、見送りに来たお手伝いさんに私への手紙やプレゼントを言づけて、仕事に従事している。

 これを物語の変容と呼ばずして、なんとする! ドヤ!


 娘にあまあまのお父様の悩みの種である、「大好きな娘がお手伝いさんから好かれてない件」もしれっと解決できているではないか。

 魔法学園入学までのタイムリミットが短かったから、完全にとは行かなかったけれど、できる限りのことはやった。そして、結果も一応出た。


 そんなにすごいことは、してない。ただ、「当たり前のことを当たり前にやっただけ」。本来のエルフレーダは、お父様に甘やかされて育ったために、かなりのワガママお嬢様になっていた。他者への尊敬を忘れ、自分とお手伝いさんたちの間には明確な違いがあるのだ、何をしても許されるのだと勘違いをしていた。それを正してあげただけ。

 仕事とはいえサービスを提供する相手が、他者への思いやりがあるかないかで、サービスの質が変わるのは、仕方のないこと。

 例えば。現代日本でいえば、お店の人にありがとうと言うか、言わないかで接客している側の人間の気持ちが少し変わったりする。

 それと一緒。お手伝いさんに何かしてもらうたびに、お礼を言った。すれ違うお手伝いさんに、お疲れ様と声をかけた。困っていそうな人に、声をかけた。それだけ。

 それをたった二日、やっただけ。それだけなんだけど、どうやら効果はあったみたいで、今に至る。


 プレゼントであふれている馬車へと体を押し込み、窓から笑顔で手を振る。

 さぁ、問題の魔法学園へと出発だ!

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