命運が決まるまであと〇日
「エルフレーダ様は、物語を書く。わたしは、物語を読む。よい関係です」
「エルフレーダと呼ばれると恥ずかしいので、ぜひ詩音とお呼びください」
エルフレーダ様と呼ばれると、なんだかむずがゆい。
それに、本来の年齢で見ると黒瀬さんの方が年上だからね。
「……それでは、執事兼家庭教師であるわたしと二人になる時にだけ、そうお呼びいたしましょう」
エドワードさんのウインク。
「おお、様になりますね!」
「まさか、ウインクが似合う好青年になれる日が来ようとは思いませんでしたっ」
感動っ、とエドワードさんが嬉しそうに小躍りする。年齢の割に幼い人なのかも。
「ちなみにシオンさんは、『ロイヤル・プリンスラヴァーズ』はプレイされていましたか?」
「ほんの数時間だけ。ですから、物語の結末は、よく知らないのです」
「それはいけない」
エドワードさんが顔をしかめる。
「あのゲームは、名作ですよ。僕も乙女ゲームはこのゲームが初めてでしたが、予想外の面白さに、積みゲーを増やしてしまうほど、やりこんでしまいました。全エンディング確認済みです」
おお、ガチ勢。こんなところにガチ勢が。しかし今は、それが救い。
「それじゃ、大体のストーリーはご存じだと」
「無論です。なんなら、セリフ一言一言まで、頭に入っております」
「それは助かります!」
面白かったとはいえ、数時間しかプレイしていなかったから、すべてのストーリーは分からない。
エルフレーダの人生に共感したから彼女のプレイヤーとしてこの世界にやってきた私だけど、まだゲーム内で登場する彼女の人生や性格すべてを理解できているわけではない。
「それじゃ、エルフレーダさんについて、詳しく教えてください」
「エルフレーダ・クローネリア。十六歳。クローネリア伯爵家の娘の一人。王国第一王権者である、クルト・コーンウィル王子と婚約していた。主人公である藤岡友理奈の登場により、クルトの興味が彼女に行ってしまったことが気に入らず、友理奈に取り巻きの友人たちと様々な嫌がらせを行う。その行いがクルトにばれ、彼女は婚約破棄を言い渡される。エルフレーダの周りには誰も寄り付かなくなり、王家との婚約破棄が原因で、彼女の家は没落していく」
「最悪の結末ですね」
「はい、最悪なシナリオです。まぁ、悪役令嬢によくあるパターンですが」
「そんなバッドエンド方向に向かうキャラクターに、あなたも共感してしまったのですね」
このゲームをやりこんだのなら、どのキャラクターのプレイヤーになれば平和に過ごせるか分かっていたはずだ。
私と同じように女神様に依頼されたのなら、共感したキャラクターのプレイヤーとなると分かった時点で、平和に過ごせるキャラクター名を出して、そのキャラクターに共感したと言えばよかっただけなんじゃないかな。
わざわざ本来のシナリオ的に悪い方向に転がっていく私付きの執事であるエドワード・クロステリアのプレイヤーになる必要はない気がする。まぁ、破滅フラグのある悪役令嬢プレイヤーになった私が言うことじゃないか。
「あなたがおっしゃりたいこと、よく分かりますよ。けれど、それ以上に彼の人生を変えてみたいと思ったのも事実です。エドワードは、エルフレーダの性格が歪んでしまったのは、自分の育て方のせいだと後悔していました。彼は本来、伯爵家の執事になれるような出自ではありませんので、婚約破棄イベントの後は、周りの風当たりがさらに厳しくなるんです。ですから僕は、彼の人生が少しでもマシになるようにお手伝いがしたいと思ってプレイヤーになりました。エルフレーダの根性を叩きなおし、彼の人生がハッピーエンドになるように」
すみませんね、エルフレーダの性格が悪くって。
でも彼女、努力家なのは分かってるから。
私と違って、ちゃんと努力しているから、人にも求めたくなるんだろうなって。
「それじゃ、これから私の面倒、しっかり見てくださいね。私が暴走しないように」
「心得ました」
「あと、設定やストーリーなどについても少しずつでいいので教えてください」
「任せてください」
胸をどんと叩くエドワードさん。彼はそれからすぐに、はっとした表情になる。
「そういえばエルフレーダ様。明後日、学園の入学式ですよ」
「え!? もうそんな時期なんですか!?」
エドワードさんが頷く。
「ええ。婚約破棄イベントは、学園の入学から一か月後の、新入生歓迎パーティで起きるイベントです。ですから、わたし達の命運はあと一か月で決まると言っても過言ではありません」
ちょっと心の準備がまだなんですが!!!!!?
小説書いてる場合じゃなかったあああああああ!!!!
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