16.争奪戦

争奪戦コンフリート。それは本来ファインズ間の力の均衡、そして腐敗を防ぐための制度で、年に一度各ランクひとつのファインズに対してその挑戦権が与えられている。


挑戦できるのは同ランクもしくは上のランクのファインズで、上のランクが下のランクには挑めない。つまり今回ララ・ファインズに挑むのは同じEランクのファインズ。負ければカインが奪われるが、勝って防衛すればファインズランクが上がる可能性がある。



「ぼぼぼぼ、僕なんですか???」


「そう、キミだよ」


クララが溜息と共に答える。


「どこのファインズなんですか?」


「イメルダ・ファインズよ」


今度はマリエルが答える。クララが言う。


「最近新しい冒険者を入れたファインズ。実力的にはランクE以上よ」


「ひ、ひえええ~」


カインの青かった顔が更に青くなる。クララが拳を握りしめて思う。


(渡さない。絶対に勝ってカインは渡さないんだから!!)





争奪戦コンフリート当日。

ヴェルナは試合前のイメルダにそっと近寄り話し掛けた。


「準備は万全かい?」


イメルダが無表情で答える。


「愚問だ。それよりミルカは無事なんだろうな?」


「ええ、私に反抗しなければ、無事ですよ」


「くっ!!」


イメルダは唇を噛み締めて闘技場へと向かった。



今回の争奪戦コンフリートはクラスEのみの開催となった。上位ファインズは打ち合わせをしているのか、争奪戦コンフリートを行うことはほとんどない。ある意味形骸化しているイベントではあったが、冒険者達が仲間の為に必死で戦う姿を求めてたくさんの観衆が集まっていた。


試合の説明が始まる。

戦いはファインズから3名ずつ出場し、先鋒、副将、大将の順に戦う。ララ・ファインズは先鋒スミレ、副将クララ、そして大将をカインとした。


「むむむ、無理ですよ、僕が大将なんて……」


役職を言い渡された際に驚いたカインが言う。クララが説明する。


「雷牙が出てくれればいいんだけど、不確定だからね。大丈夫。スミレと私で2勝してさっさと終わらせるよ」


そう言ってスミレの肩を叩くクララ。しかしスミレは試合前になっても眠っているようにふらふらしている。カインは震えて頭を抱えて座り込む。



「イメルダ・ファインズの入場です!!」


大きな歓声と共に対戦相手であるイメルダ・ファインズが入場して来た。巨漢のドワーフに魔法使いっぽい女が二人。そのうちの大人の色香をムンムンと出す女性がカインの所へやって来て言った。


「あら、可愛い坊やだこと」


そう言ってカインの顔の横を指でつつつっと触る。


「ひ、ひええええ~」


カインは強そうな相手を見て既に逃げ腰である。審判員が叫ぶ。




「先鋒、上へ!!」


イメルダ・ファインズからは巨漢ドワーフのバンゲルが、そしてララ・ファインズからは半分眠りながらクララに肩を抱かれたスミレが闘技場に上がる。


ガーデン王国闘技場。

古代コロシアムを彷彿とさせる円形状の建物で、その中心に楕円形の闘技場がある。階段状に作られた観客席に、争奪戦コンフリートの開始を待つ人がぎっしりと集まり歓声を上げている。

王族専用席もあり、そこではシルファールが闘技場に現れたカインの姿を見てハアハアと甘い息を吐いて見ている。


闘技場に上がったバンゲルがゴキゴキと首を鳴らす。対するスミレは床に座り込みウトウトとしている。

勝敗は戦闘不能、降参、場外に落ちるなどで敗北。ただし相手を殺したり、後遺症が残るような攻撃は禁止。武器の使用は事前申請で認められた物のみ可能だ。



審判員の手が上がる。


「始め!!」


それと同時に湧き上がる歓声。ドワーフのバンゲルが肩に持っていた棍棒を担ぎ大声で笑う。


「ガハハハハハっ!!!!」


対するスミレはよろよろと起き上がったものの、腰に剣を差したまま目を閉じてフラフラしている。


「おい、寝てんのか!?」


会場から飛ぶヤジ。闘技場の端で心配そうにスミレを見つめるクララ。カインはその横で大観衆と相手の冒険者に怯えてどんどん体が小さくなっていく。


「がああああ!!!」


ドン!!!


開始直後笑っていたバンゲルは、棍棒を振り回し強烈な攻撃をスミレに放つ。闘技場の端まで吹き飛ばされるスミレ。頭から流血をする。スミレは立ち上がって独り言を言う。


「えー、なに? 痛い……」


それでもまだ眠気眼なスミレ。今度は拳でスミレを殴るバンゲル。再び闘技場の端まで吹き飛ばされたスミレが起き上がって言う。


「あ、あれれ、試合、始まってぇ? 戦わなきゃ……」


殴られてようやく戦闘に気付いたスミレ。腰に付けた二本の剣を抜き、フラフラとバンゲルに斬りかかる。



「ふがっ!!」


カンカン!!!


しかし速さもキレもないスミレの剣。バンゲルは持っていた棍棒でそれを簡単に弾く。そして大声で言う。


「こんな弱っちい奴が争奪戦コンフリートの代表なのか?」


そう言って大声で笑うバンゲル。それを見ていたカインが震えながら言う。



「ススススス、スミレちゃん、大丈夫かな……、た、たくさん殴られちゃって……」


顔が真剣になるクララ。真剣にスミレを見つめる。



「い、痛~いぃ、やらなきゃぁぁ、う~、やらな、きゃ……」


それでもまだ眠そうなスミレが剣を振り回してバンゲルに向かっていく。しかし素人以下の剣術にその攻撃がことごとく避けられる。そして反撃を受けるスミレ。

あまりに一方的な展開に会場からブーイングが出始める。会場全体が期待していた熱い戦いとは程遠い内容に不満の声が上がった。



ドーン!


バンゲルに殴られて吹き飛ばされたスミレがクララの前で倒れる。


「大丈夫、スミレ? しっかり!!」


倒れたままのスミレが思う。



(お父さん、お母さん。どうして私に免許皆伝なんてくれたのかなあ。ああ、痛いし、眠いよおおぉ……)


目を閉じてぐったりするスミレ。全身にアザができ流血も多い。それを間近で見たカインはガタガタと歯を震わせ真っ青な顔になる。


「弱い雑魚が」


バンゲルはスミレに近付いて頭を掴む。そしてそのまま持ち上げると大声で言った。


「つまらねえ、これで終わりだ」


それを見ていたカインが立ち上がり叫ぶ。


「が、!! スミレちゃん!! 負けるな!!!!」


その瞬間、スミレの目がかっと見開き、そして彼女の頭を掴んでいたバンゲルの腕から突如血しぶきが上がった。


「ぐあああああ!!!!」


突然の出来事に驚きスミレを放り投げ、腕を押さえてのたうち回るバンゲル。スミレはいつの間にか少し離れた場所で一本の剣を持ち屈んでいる。そして言う。



「ぐおおおおおお!! カイン様の応援!!! 受けよ!! 雷神一刀流……」


そう叫んだスミレは光る黄色の剣に力を込める。



「イナズマ斬りィィ!!!!」


スミレが剣を下から振り上げると、まるで激しい雷撃のような衝撃と共に雷の刃がバンゲルに放たれる。


「バンゲルーーー!!」


敵の団長のイメルダが叫ぶ。


「うぐ、うぐぐぐっ……」


バンゲルは斬られた腕の痛み、そして強烈な雷撃に怯え動けなくなっていた。轟音を立てて雷撃がバンゲルに迫る。


ガン!!!


その雷撃をはねのける音が辺りに響いた。上空に消えるスミレの雷撃。

静まり返った群衆の視線がバンゲルの前に立つひとりの男に集まった。美形の男子。手には細身の剣。スミレの刃をはねのけたその男が言う。


「殺生は禁止。まあ、勝負あり、かな」


その男、ロイヤル・ファインズ所属のレオンハルトは、スミレの気迫に失神して倒れているバンゲルを見て言った。スミレが目を閉じてへなへなと座り込む。



「ああ、もう力ない……、カイン、さま~、ぐー」


「勝者、スミレ!!」


スミレの勝ちが告げられると観客席から大きな声援が起こった。カインとクララ、そしてマリエルも闘技場に上がって座り込むスミレに走り寄る。


「やったー! スミレ!!」


喜びスミレの肩を抱くクララ。カインも笑顔でスミレに言う。


「よく頑張った! 、スミレちゃん!!」


そう言うカインの言葉に急に目が覚めるスミレ。そして叫ぶ。



「カ、カイン様の応援!!!! うおおおお!! 敵はどこだああああ!!!」


そう言って剣を抜くと会場の外へと全力で走って行った。


「ああ、ス、スミレちゃん!!」


「えっ!? ど、どうしたんだい、一体?」


戸惑うクララ。突然走って去って行った勝者に静まり返る会場。しかしその会場に自分の名前が響いた。



「副将戦、クララ対ザイール!!」


それを聞いたクララの顔が引き締まる。





一方、ガーデン王国に入った炎神龍。遥か先にあるガーデン王城の方を見て大声で叫んだ。


「そこにいるのか、待ってろ、強神竜ジジイよおおおお!!!!」


炎神龍の体からより強い炎が巻き上がった。

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