15.指名通知
ララ・ファインズのホームに突然現れたひとりの少女。綺麗な茶色の髪を後ろでひとつに結び、腰には左右に二本の剣、そしてドアの外ですやすやと寝ている。
驚くマリエルをよそにクララがその少女を見て言った。
「ああ、やっと来たか。新しい団員だよ」
「ええっ!?」
クララは玄関で眠る少女の元へ行き、頬を軽くパンパン叩きながら起こす。
「おい、起きなさい。スミレ」
スミレと呼ばれた少女はクララに起こされると眠そうな声で言った。
「あ、団長。宜しくお願い……、しま……、あ~、すぅぅ……」
そう言うとまたウトウトとし始める。
「起きろー!」
クララは手を手刀の様にしてスミレの頭を叩く。
「ぎゃ! お、おはようございます!!」
突然飛び上がって挨拶をするスミレ。
クララはスミレの手を引っ張ってホームの中へ入れる。よろよろと中に入るスミレ。歩きながらクララが尋ねる。
「ねえ、スミレ。どうしてこんなに来るのが遅くなったの?」
半目のスミレが答える。
「あ、はい。入団許可貰った後、すぐに家を出たんですが……、ぐー、ううっ、いえ、その家を出たんですが、ぐー、え? あ、あの、途中で、不思議と記憶が無くなってしまって……」
(寝たな、こいつ。ここに来る途中で……)
スミレを見つめるみんなが思った。スミレが続ける。
「うう、え、えっと、それで遅くなりました……、ぐー」
そう話しながらも首がゆらりゆらりとするスミレ。見ている方も眠そうになる。クララが皆に説明する。
「彼女はスミレ。よろしくね。こ、こう見えても彼女、経歴は凄いんだよ」
「経歴?」
マリエルが言う。
「うん、雷神一刀流の父、風神一刀流の母を持ち、その両方の免許皆伝なんだ」
「えっ!! それは凄い!!」
驚くマリエルにいつの間にかカインに戻ったカインが尋ねる。
「そ、それって、凄いことなんですか?」
「凄いと思うよ! 名前が凄そう」
「はっ?」
正直マリエル自身もそれほど良く分からない。カインが言う。
「でも何でそんな凄い人をうちのようなファインズが指名できたのかな?」
通常強者ならば上位ファインズが指名する。下級ファインズには余程の運がないとそんな人材は回ってこない。クララが答える。
「実技試験に落ちたんだよ」
「えっ!?」
驚くカイン。
実技試験は木の人形をただただ殴るだけ。剣を落としたカインですら通った試験。皆が思った。
――寝たな、試験中……
カインは免許皆伝の腕と実技試験に落ちたというスミレを見つめた。その眠そうなスミレにカインが挨拶をする。
「よ、宜しくお願いします。スミレさん」
そう言われたスミレがカインを見つめる。そして暫くの沈黙の後、急に眼を大きく見開き声を出す。
「お、おおお、男の子!?(……しかも可愛い!!)」
急変したスミレに驚くカイン。スミレが言う。
「あ、あ、あの、名前、お名前は?」
「カ、カインです……」
「カイン……、さま……、カインざまあああああ!!!」
突然立ち上がって大声を出すスミレ。驚く一同。スミレが続けてカインに大声で言う。
「何を、何か、お願いしたの、今、私にぃ? 教えて、カイン様っ!!!!」
「お願いって、よろしくって言っただけだよ」
「よろしく……」
それを聞いたスミレがその言葉を小さく繰り返す。そして今度は手を差し出してカインに大声で言った。
「よろしぐううう!! カイン様っ!!!!」
その大きな声に驚きながらもカインは手を差し出して応えた。
ロイヤル・ファインズ副団長ヴェルナの邸宅。
ヴェルナは椅子に座り机に脚を乗せワイングラスを傾ける。そこにメイドが来客の訪問を伝える。
しばらくしてメイドに案内されたひとりの女性がヴェルナの部屋に入って来た。
「何だい、珍しい。あたいに用かい?」
「これはこれはイメルダ・ファインズ団長にお越し頂いて恐縮だよ」
(碌に会話もしたことがないくせに)
イメルダは不愉快そうな顔をしてヴェルナを睨む。そんなイメルダを気にすることもなくヴェルナが言う。
「今年の
イメルダは別名『冒険者獲得戦』とも呼ばれるそのイベントのことを思って答える。
「ああ、そうだ」
「ひとつ頼みがある」
「頼み? 何だ?」
ヴェルナは机に乗せた足を下ろし、イメルダをじっと見つめて言う。
「簡単な事よ、とあるファインズの男を指名して欲しい」
「男? そいつはうちと同ランクのファインズなのか?」
ヴェルナが頷いて言う。
「ああ、そうだ。そしてその男を仲間に入れてから、依頼中に誤って事故死させて欲しい」
余りの突然の依頼に驚くイメルダ。
「ふざけるな。ロイヤル・ファインズの副団長ともあろう方が何を血迷った?」
ヴェルナはにやりと笑って言った。
「血迷ってはいない。そうそうお前の妹、元気なのかい?」
「なっ!?」
イメルダはここ数日突如行方不明になった妹のミルカを思い出す。ヴェルナに近付いて言う。
「お、お前、妹を、ミルカの行方を知っているのか!!」
血相を変えてヴェルナに詰め寄るイメルダに、ヴェルナは落ち着いて言う。
「さあ、どうだろうかねえ。でもまあ、無事に姉妹再会を果たしたいのならば、まあ、私に協力すべきだろうね」
「き、貴様……」
イメルダは薄気味悪く笑うヴェルナを激しく睨みつけた。
その翌日、ララ・ファインズのホームに一通の手紙が届けられる。その手紙の表に書かれた文字を見たクララが驚いて言う。
「
隣にやって来たマリエルもその文字を見て口を手に当てて驚く。更に封を開けて中身を見た二人は青い顔をして力なく言った。
「み、みんな、ちょっと集まってくれ……」
一通の手紙で突然集められた一同。カインが尋ねる。
「ど、どうしたんですか。青い顔をして……」
クララが答える。
「うん、うちに
「
初めて聞く言葉にカインが首を傾げる。マリエルが説明する。
「
「冒険者を賭けて戦う?」
カインが驚く。マリエルが続ける。
「基本同じランク同士でそこの冒険者を指名でき、そして3名ずつの戦いで勝てばその冒険者を獲得できるの。指名された方は勝てば防衛成功となり、ギルド貢献度が上がるの」
カインが青い顔をして言う。
「で、どうしてそれがうちに? ……まさか」
クララが答える。
「そう、そのまさかよ。指名が来たのうちに」
「だ、誰を、ですか……?」
カインの言葉にクララが答える。
「あなたよ、カイン」
その言葉を聞いたカインは心臓が止まるような感覚に陥った。
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