第三節 ~カイン争奪戦~

14.告白

ガーデン王国辺境。国境がある辺境の地をその男はひとり歩いていた。

全身から燃え上がるような炎を纏いガーデン王国へと歩みを進める。遠くから見てもその異常さは目立っていた。


男に気付いた国境警備隊が出動。近づきその姿に驚く。ヒト族のような姿はしているが、全身を炎に包まれ、尖った爪、そして少し突き出した口には小さな牙も見える。



「ど、どこへ行く!!」


駆け付けた国境警備隊が尋ねる。男が答える。


「どけ、俺は急いでいる」


無理やり国へ入ろうとする男を止めようとした警備隊。すると突如男を中心にドンと言う轟音と爆炎が起こった。吹き飛ばされる警備隊。その後ろにいた別の警備隊員が言う。


「お、お前は何者!?」


男が答える。



「俺様は炎神竜えんしんりゅう!!」


「え、炎神竜だと!?」


驚く警備隊。炎神竜が叫ぶ。



「どこにいやがる!! 強神竜ジジイの力を受け継いだ奴よおおおお!!!!」


炎神竜を中心にさらに大きな爆炎が起きた。





「乾杯ーーーっ!!」


マリエルが復帰したララ・ファインズ。

早速その日の夜、ホームではマリエルの歓迎会が開かれていた。料理好きなマリエルが自らたくさんの料理を作り、クララも負けじと真っ黒に焦げたお菓子の山を並べる。

カインはミル・ファインズでも優しくしてくれたマリエルの復帰を喜んだし、マリエルもカイン達とまた居られるのを嬉しく思った。


ただ今日カインはある事を二人に話そうと思っており、実はそのことで頭が一杯だった。そして二人が昔話に花を咲かせる中、カインが口を開いた。



「あ、あのお……、ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど……」


話をやめカインを見つめる二人。


「なに?」


クララが言う。カインが答える。


「あの、実は僕にはと言う全く別の人格が時々入り込んで……」


「!?」


少し驚く顔をした二人。それからカインは異世界からやって来る雷牙のこと、転生のことなどを詳しく話した。

黙って聞く二人。しかしその顔には不思議と驚きの表情はなかった。話を聞き終えたクララが言う。



「なるほどねえ、それでようやく理解した。その雷牙って子が来た時のカイン、全く別人だもん」


マリエルも言う。


「そうそう、全然違うよね。そう言う事だったんだ」


「お、驚かないんですか?」


割と平然と聞く二人にカインが尋ねる。クララが答える。


「驚いたよ。でもそれ以上に納得感の方が強いかな。ちょっとだけカインに抱いていたもやもやが晴れたと言うか」


マリエルが言う。


「そうだね。でも私はどっちのカイン君も可愛いと思うよ」


「えっ!?」

「へっ!?」


ドキっとするようなことを平然と言うマリエル。二人はにこにこ笑うマリエルを見つめた。カインは赤くなる顔に手を当てながらもうひとつの大切なことを伝えた。



「あ、あと……、僕には『竜のギフト』があったみたいで……」


「!? りゅ、竜のギフトだって!?」


これにはさすがの二人も驚きを隠せなかった。クララが言う。


「竜の魔心じゃなくて、竜のなの?」


「う、うん……」


「ふえ~、驚いた。これは驚いたよ」


クララが目を大きくして言う。マリエルも続く。


「それであの雷牙さんの強さの理由が分かったわ。竜のギフトの力もあって、あれだけ圧倒的な強さが出せるんだね」


「た、多分……」


カイン自身は雷牙の戦闘を見たことがない。雷牙の戦闘後の周りの反応からある程度は予想していたが、実はそんな自分の予想よりももっと凄かったのかもしれない。クララが言う。


「じゃあ、カインも竜の力を、ちゃんと使いこなせるようになったら、物凄く強くなるってことだよね?」


「えっ?」


カインは意外な点を突かれ驚いた。

戦闘は恥ずかしながらすべて雷牙や他の人に任せていた。内気で臆病な自分。じっちゃんの仇を取るとは言って見みたものの、正直自分が厄災と戦う姿なんて想像もできなかった。

しかしこの時、クララの言葉で初めて厄災と戦うことを意識することとなる。



「このことを他に知っている人はいるの?」


マリエルが尋ねた。カインが答える。


「竜のギフトについてはロイヤル・ファインズの一部の人が知っています。雷牙のことは初めて話しました」


雷牙については両親にすら話していない。変な心配かけたくなかったし、戦闘など全くなかった山の暮らしでは雷牙の振舞いなど目立たなかった。

しかしここは違う。既に雷牙が倒した魔物もたくさんおりいつまでも隠すことはできない。だからこそ信頼しようと思った二人にはカインから話すことを決心したのだ。



「ありがとう、話してくれて」


「えっ」


カインはクララから出た感謝の言葉に驚いた。


「実際これだけのことを他人に話すってのは相当な勇気がいること。カインも悩んだんだでしょ。でも私達を信頼して話してくれた。嬉しいよ」


クララはカインの両手を握って顔を近づけて言った。


「あ、あの、いえ、そんな……(か、顔が近い!!!)」


カインは大きくてキラキラ光るクララの目を見て赤くなって答えた。それを見たマリエルが言う。


「あー、カイン君、顔赤くなってる!!」


「え、い、いや、そんなことは!!」


慌てて顔を押さえるカイン。みんなの笑い声がファインズのホームに溢れた。




「う~ん、上手くいかないなあ」


翌朝、ホームで趣味と実益を兼ねてお菓子作りをするクララ。しかし何度作っても全部真っ黒焦げになってしまう。それとは対照的に見事に美味しそうなクッキーを焼くマリエル。クララが言う。


「何でマリエルはそんなに上手に焼けるのかな」


「いや、それよりどうやったらそんなに真っ黒になっちゃうのよ」


マリエルはクララの前に山のように積まれた真っ黒に焦げたクッキーを見て言う。クララがマリエルの焼いたクッキーをひとつ口に入れて言う。



「こんなに美味しいクッキーで魔法が使えたらなあ、もぐもぐ……」


「そうね、いつもこんなお焦げばかりじゃ辛いよね、もぐもぐ……」


クララのスキル『お菓子な魔法』は、自分で作ったお菓子でしか発動することができない。それゆえ時間のある時にクララはお菓子を作り、そして専用の木箱に入れて持ち歩いていた。

しかし何度やっても真っ黒焦げのお菓子しかできない。クララは暗い表情でそのお菓子を箱に詰めた。



「あー、ハラ減った」


そこへ起きてきたばかりのカインがやって来た。それを見て二人が言う。


「雷牙ね」


「雷牙君だね」


カインはキッチンから匂ってくる香ばしい香りにつられてやって来た。クララが言う。


「ねえ、ちょっとこれ食べてみてよ」


そう言って真っ黒に焦げたクッキーが盛られた器を差し出す。それを見たカインが言う。



「何だこれ? 天かすでも焦がしたのか」


バーーーーン!!!


「痛ってええ!!!」


クララがカインを張り倒す。そして大声で言う。


「て、ててて、天かすって何よ!! 失礼な!! クッキーよ、クッキー!!!」


寝起きに殴られ目が覚めるカイン。ようやく周りの状況に気付いて言う。


「ク、クッキー? あ、ああ、それは悪かった。すまん」


それでもクララからは怒りのオーラがどんどん発出される。カインが言う。



「わ、わかった、怒るな。俺の世界でも色々なお菓子があるから、今度カインに作り方を伝えておく。美味いお菓子だ。た、楽しみにしててくれ」


カインが狼狽えながらそう言うと、ドアのベルが鳴った。



ピンポ~ン


「はーい!」


音に気付いたマリエルがホームのドアを開ける。そして驚くマリエル。



「えっ、だ、誰?」


そこにはひとりの少女が壁にもたれかかって眠っていた。

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