12.因果応報
ミノタウロスがクララに斧を振り上げた瞬間、その巨大な斧が吹き飛ぶ。マリエルは両手で口を押えて涙し、クララはカインの腕の中で張りつめていた気が抜けたのかそのまま眠るように気を失った。
カインはクララをそのままゆっくりと地面に寝かせる。そしてミノタウロスを見て言った。
「女を殴るとは牛の風上にも置けん奴だ」
「ググゴオオ……」
ミノタウロスは突如現れた目の前の男の異常さをその身で理解していた。強者だから分かるカインの強さ。自分の半分ぐらいしかない相手を前に金縛りにあったように動くことができなかった。カインが言う。
「俺も武器なしでやってやろう」
そう言うとカインは持っていた剣を鞘に納める。ミノタウロスはカインが何を言っているのか理解はできなかったが、その一挙一動にビクッと体が震える。
そしてカインの覇気が急激に上がる。瞬時に殺されると思ったミノタウロスがその太い腕を振り上げた。
「!!」
しかし拳を振り上げたミノタウロスは今そこにいた男が消えていることに気付く。そして視線を上げると、同じく拳を振り上げて宙に舞っているカインが目に入った。
「はあっ!!!」
ドン!!!
カインの右拳がミノタウロスの顔面に鈍い音を立てて打ち込まれる。ミノタウロスは成す術なく爆音と共に地面に叩きつけられ、口から小さな呻き声が漏れる。
「グゴオゴオオオォォ……」
首は逆方向に曲げられている。目は白目になり口からは泡が吹き出す。そしてそのまま黒い煙となって消滅した。
マリエル、そして彼女に介抱されて目覚めたクララがその光景を見て驚き声を出す。
「魔族を、あの魔族をたった一発で倒しちゃったよ……」
ふたりの目からは助かった安堵から涙がほろほろと流れ落ちた。ミノタウロスを倒したカインが歩きながら近づきマリエルに言う。
「お前、マリエルだったな?」
「そ、そうだよ、久しぶりだね。カイン君」
マリエルは涙を拭きながら笑顔で答えた。
「おい、お前らいい加減に仲良くしろ」
「え!?」
その言葉を聞いて驚く二人。カインが言う。
「冒険者ってのはいつでも死ぬ覚悟はできてるんじゃねえのか?」
黙り込む二人。
「クララ、お前だってさっき勝てもしねえのに牛野郎の前に立っただろ? それが団長、それが冒険者」
「うん……」
クララが小さく返事をする。
「いつまでも気にするんじゃねえ。お前らの元団長はそんなことを望んでいると思うのか?」
その言葉にハッとする二人。クララが言う。
「忘れない、忘れないけど……、そうだね。私達がこれじゃあ団長も悲しんでるよね」
マリエルも続く。
「本当にその通り。私はやっぱりダメダメ。また団長に叱られちゃう」
マリエルの言葉にクララが答える。
「ううん、ダメなのは私だよ」
「うん……」
そう言って涙を流しながら二人は抱き合った。
魔人ミノタウロスを召喚して放ち、ファインズの場所へと戻るマックル。それに気付いたミルフォードが尋ねる。
「あれ、マリエルは? 一緒に後をついて行ったぞ」
マリエルが帰って来ないことを不審がったミルフォードが言う。一瞬驚きの表情を見せたマックルだが、すぐに無表情になって答える。
「知らない」
しかしそう答えて歩き出そうとしたマックルの足が止まる。そして急にブルブルと体が震え始め、唸り声をあげ苦しみ始める。
「うご、がああ、ぐおおおぉぉ……」
その異変に気付いた周りが声を掛ける。
「マ、マックル、どうした!?」
マックルは両手で頭を押さえうずくまり、そして苦しむ。ごほごほと口から緑色の液体を吐き出してガタガタと身を揺らし始めた。
「ヒ、ヒールを!!」
団長のミルフォードがヒーラーに命令を下す。急ぎヒーラーがマックルの傍に駆け寄るが、その体は既に紫色に変化しそしてどんどんと体が大きく膨らみ始めていた。
「な、なによ、これ……」
その異常に皆が恐れマックルから離れ始める。ミルフォードが叫ぶ。
「な、何かに取り憑かれたのか? 下がれ! 武器を持て!!」
巨大化したマックルは下を向きゼイゼイと荒く息を吐く。そして体の震えが止まるとゆっくりと起き上がった。
「なっ……!?」
その姿はマックル、いやもはやヒト族の面影もない魔族であった。
「ぎゃあああああ!!!!」
「!?」
カイン達は遠くから聞こえた悲鳴に気付く。クララが言う。
「な、何今の声?」
「分からない、俺が見てくる。お前らはここに居ろ!」
カインはそう言って声のする方に向かって走り出す。
「あ、待って……」
一緒に行こうとした二人が声を出す。クララがマリエルに言う。
「動ける?」
「ええ、ゆっくりなら」
クララはマリエルに肩を貸しゆっくりと声のする方へと歩き出した。
「な、な、何だよこれ、マックル、マックルーーーっ!!!」
魔族化したマックルに団員達が声を掛ける。
「グオオオオオオォォ!!!!」
体が巨大化し邪気を放ちながらマックルが大声で咆哮する。ミルフォードが言う。
「こ、これは魔族では? あいつ一体何をやったんだよ!!!」
団長の『魔族』と言う言葉に驚き戸惑う団員。ミルフォードが指示を出す。
「マックルを討て!! もはやヒトではない。躊躇せずに討て!!!!」
ミルフォードは保身の為ではあったがそれでもすぐにマックル討伐を指示した為、結果的に被害が拡大するのを防いだ。
ドオオン!!!
「ぐああああっ!!!」
魔族化したマックルが団員に殴り掛かる。直撃を受けた団員が吹き飛ぶ。
「はあああ!!!」
バキッ!!!
「なっ!? ぎゃああああ!!!」
剣で斬りつけた団員。その剣がマックルの強靭な体で半分に折れ、反撃を受け団員が殴り飛ばされる。残った団員が一斉にマックルに斬りかかる。マックルは小さく何かをつぶやく。一瞬マックルの体が光った。
ドオオオオオオン!!!
突如マックルを中心に起こる爆発。彼に斬りかかっていた団員が皆その爆発に巻き込まれ倒れて行く。それを見たミルフォードが言う。
「な、なんだよ、こいつ……、ランクBの団員達がこんなに簡単に……」
ミルフォードの体から力が抜けていく。そこへキザな冒険者が横に立ち言う。
「ボ、ボクが行きます!!!」
そう言うとガーデンバードの
「はああああ!!!!」
剣を持ち、まるでニワトリのくちばしの様に何度も突きを繰り出す。
トントントントン
しかしそれは軽くマックルの皮膚をつつく程度でほとんど効果はなかった。
ドーーン!!!
「ぎゃああああ!!!!」
キザ冒険者はマックルの強烈な蹴りを食らって遥か遠方まで吹き飛ばされた。
――強い邪の気配を感じる
カインは走りながらその先から感じる邪悪な気を感じ足を急いだ。
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